熱戦が続く夏の甲子園で、グラウンド外の出来事が大きな波紋を広げている。春夏合わせて53回目の出場となる強豪、広陵高校(広島)の野球部で、上級生による下級生への暴行事件が発覚したのだ。この問題は、日本高校野球連盟(高野連)の対応や、甲子園での試合の空気にまで影響を及ぼし、世間の注目を集めている。
暴行事件の経緯と情報の拡散
今回の騒動の発端は、被害者の下級生の保護者とみられる人物が今年7月にSNSに投稿した長文だった。そこには暴行事件の詳細が記されており、広陵が甲子園出場を決めたことで、大会開幕とともに情報は瞬く間に拡散。SNSではこの話題で持ちきりとなった。
こうした状況を受け、日本高野連は8月6日、学校側から2月に暴力事案の報告があったことを公表した(実際の事案は1月に発生)。高野連は3月に審議を行い、厳重注意の措置を決定済みであり、甲子園大会の出場判断に変更はないとしている。また、SNSで拡散されている内容と学校からの報告内容に相違があったものの、学校側は報告内容以外に新たな事実はないと表明した。しかし、SNSでの話題は広がり続け、広陵が試合に登場する8月7日には、テレビの全国ニュースでも取り上げられる事態となり、事態は収束しなかった。
甲子園球場に漂う「異例の空気」
そんな中で迎えた8月7日の第4試合、広陵は旭川志峯(北北海道)と対戦した。その日の甲子園球場には、明らかにいつもと異なる空気が流れていた。特に異彩を放っていたのが、広陵を応援する三塁側のアルプススタンドだ。学校側の判断により、吹奏楽部の姿はなく、野球部の控え部員と保護者のみによる応援となっていた。
広陵高校の選手たちが入場行進する様子。今大会で甲子園出場53回目となる強豪校
さらに違和感を覚えたのは、シートノックが終わり、広陵の選手がアルプススタンドに向かって一礼した場面だ。普段の試合であれば、アルプススタンドはもちろん、それ以外の三塁側の観客席からも大きな拍手が起こるものだが、この日はアルプススタンド以外の観客は静かなままだった。この異様な光景には、長年甲子園大会を取材しているベテラン記者も「こんなことは初めてです」と驚きを隠せなかったという。
試合結果と今後の課題
試合は、4回表に旭川志峯が1点を先制。しかし広陵は直後に3番・高橋海翔選手(2年)のスリーベースと相手のエラーで同点に追いつき、6回と7回には犠牲フライでさらに2点を追加した。先発した堀田昂祐投手(3年)がそのリードを守り抜き、広陵が3対1で勝利を収めた。
甲子園での試合中、6回裏に勝ち越しのホームインを決めて生還する広陵高校の白髪零士選手
広陵高校は初戦を突破したものの、今回の暴行事件は高校スポーツにおける倫理と指導のあり方に大きな課題を突きつけている。高野連の処分、学校の対応、そして世間の厳しい目の中で、選手たちがどのような心境でプレーを続けるのか、また、こうした問題が今後どのように扱われていくのか、引き続き注目される。
参考文献
- デイリー新潮 (2025年8月8日). 甲子園出場「広陵」に暴行事件…球場に流れた“異例の空気”を関係者が語る「こんなことは初めて」. https://www.dailyshincho.jp/article/2025/08081701/ (記事内容に基づく情報)