トランプ米政権が各国と結んだ関税措置に関する合意は、締結後もその内容を巡って米国側と相手国側との間で認識の食い違いが生じたり、未解決の問題が残されたまま協議が継続されたりするケースが散見されます。これは、米国が「相互関税」の発動期限を前に、拙速な妥結を優先した結果、「見切り発車」で合意表明に至った側面が強いことを示唆しています。日本もまた、米国との貿易交渉において同様の課題に直面する可能性があります。
米国との関税合意において認識の食い違いがある主要国・地域を示した図:米国の貿易交渉の現状と課題
EUとの合意:自動車関税と適用開始日の不確実性
欧州連合(EU)と米国は7月27日に貿易合意を表明しましたが、その実態には不満が残っています。ドイツ自動車工業会のミュラー会長は6日の声明で、「EUと米国の合意は、これまでのところドイツの自動車産業に明確さや進展をもたらしていない」と述べ、米国が自動車への関税措置を「すぐ停止しなければならない」と強調し、EUに米国への働きかけを強く求めました。この合意では、EU製自動車への関税が27.5%から15%に引き下げられることになったものの、最も肝心な適用開始日が未定のままでした。このような詳細が固まらないまま、トランプ米大統領との合意表明に踏み切った貿易相手国はEUだけではありません。
韓国との複雑な認識:投資と農畜産物の問題
韓国は既に米国との合意を表明していますが、李在明大統領が今月中にも訪米し、トランプ氏と会談して細部に関する協議結果を発表する見通しです。韓国側は既に3500億ドル(約51兆円)規模の対米投資で合意し、造船、半導体、原発など「韓国企業が競争力を持つ分野」への投資を説明しました。しかし、トランプ氏は投資先を「私が選定する」と主張。さらに、ラトニック米商務長官が「投資収益の90%を米国が持っていく」と発言したのに対し、韓国政府高官は配分は決まっていないとし、「常識的にあり得ない」と反論しました。
特に顕著な認識の食い違いが見られるのは農畜産物の分野です。トランプ氏は自動車に加え、農産物についても「韓国が市場を完全に開放する」と一方的に表明しました。これに対し、韓国政府は「コメと牛肉は追加開放しないことで合意した」と明確に反論しており、双方の主張が真っ向から対立しています。
その他の国々:ベトナムと英国のケース
ベトナムも米国との間で具体的な妥結内容の概要すら明らかにしていません。また、英国に関しても、鉄鋼関税に関する問題が持ち越されたまま、明確な決着には至っていません。これらの事例は、トランプ米政権との貿易合意において、いかに多くの不透明性や未解決の論点が残されているかを示しています。
まとめ
トランプ米政権との関税合意は、EU、韓国、ベトナム、英国など多くの国々において、その内容や詳細、あるいは適用範囲について米国側と認識の食い違いが生じていることが明らかになりました。これは、米政権が早期の「妥結」を優先し、詳細を詰め切らないまま合意を急いだ結果と言えるでしょう。このような状況は、今後日本が米国との貿易交渉を進める上でも、合意内容の明確化と、双方の認識のすり合わせが極めて重要であることを示唆しています。各国の事例から学び、日本の国益を最大化する交渉戦略が求められます。
参考資料
- 妥結した関税合意を巡り米国と認識が食い違う主な国・地域 – Yahoo!ニュース / 産経新聞 / iza.ne.jp (Source link)