韓国済州島で約10年にわたり廃車同然の車の中で生活していた50代の男性が、済州市による粘り強い福祉支援の結果、新たな生活を始めることになった。これは、地域社会と行政が連携し、長期孤立状態にあった個人を社会復帰へと導いた成功事例として注目されている。
男性は10年ほど前に大田広域市から済州市へ移住したが、住民登録も行わず、三陽海水浴場近くの駐車場で車中生活を開始した。この事実が地域住民によって済州市に知らされたのは2018年頃のことだ。以来、済州市は三陽洞住民センター、警察地区隊、希望分かち合い総合支援センターといった複数の機関と協力し、8年という長期間にわたって男性への説得を試みてきた。
長期にわたる車中生活の実態
男性が生活拠点としていた車は、エンジンすら動かない廃車同然の状態だった。数年前にタイヤはパンクしたまま放置され、車体の外側は著しく腐食が進んでいた。内部も同様に荒れ果て、耐え難い悪臭が漂っていたという。冬の厳しい寒さや夏の猛暑の中でも、男性は車内に発泡スチロール製の簡易ベッドを作り、その上で横たわりながら生活を続けていた。
当初、男性は支援の申し出に対し、「交際中の女性をここで待つよう言われた」と拒否の理由を述べていた。しかしその後は、特別な理由を語ることなく、頑なに車中生活へのこだわりを見せ続けた。済州市は男性の健康状態を懸念し、毎月4回おかずを届けるなど、最低限の生活を見守る支援を続けていたものの、男性は2023年や今年5月の本格的な介入も拒否し続けていた。
長期車中生活者の困難な実態を示す車のイラスト
健康状態の悪化と支援同意への転機
長期にわたる過酷な車中生活は、男性の健康を著しく悪化させ、精神的にも不安定な状態を招いていた。しかし、今年6月、ついに男性は済州市の支援に同意した。これを機に、済州市は「統合事例管理」制度を通じて、男性の社会復帰に向けた具体的な手続きを迅速に進めた。
支援の内容は多岐にわたる。まず、住民登録番号の再登録が行われ、続いて住居と基礎生活保障(日本の生活保護に相当)の申請、転入届の提出、そして使用不可能となっていた車両の廃車申請が実施された。さらに、食事の確保のため弁当支援も開始された。これらの手続きは、男性が再び社会の一員として生活するための基盤を築く上で不可欠なステップだった。
新たな生活と済州市の継続的な支援計画
現在、男性は済州市内の宿泊施設で新たな生活をスタートさせている。済州市は今後、男性が安定して生活できるよう、賃貸住宅の支援も検討しているという。また、精神面の回復を促すための医療支援を実施し、精神状態が安定した段階で仕事の提供も計画している。
済州市は、この事例と並行して、男性が生活していた車の近くで別の車中生活者が確認されたことにも対応した。この人物は済州地域に居住地を持つにもかかわらず、精神的な不安から車中生活を送っていたことが判明。済州市は居住地の住民と協力して説得にあたり、この人物を本来の居住地へ帰宅させた。
済州市住民福祉課のハン・ミョンミ課長は、「モニタリングと統合事例管理を通じ、一人暮らしの孤独死予防、日常生活の保障、生活の質の向上という面で、個々に見合った福祉サービスを積極的に提供していきたい」と語っており、今後も地域全体の福祉向上に力を入れていく方針を示している。
結論
済州島における10年間の車中生活者の支援事例は、一人の人間が直面する困難の深さと、それに対する行政および地域社会の粘り強い支援の重要性を浮き彫りにした。長期間にわたり社会から孤立していた男性が新たな一歩を踏み出せたのは、関係機関の連携と、個人の尊厳を重んじる継続的な働きかけがあったからに他ならない。このような包括的な福祉支援の取り組みは、日本を含む世界の様々な地域で類似の課題に直面する人々への対応を考える上で、貴重な示唆を与えるものと言えるだろう。