日本で起業する外国人向けの「経営・管理ビザ」要件が厳格化され、資本金が500万円から3000万円に引き上げられます。中国人の生態や活動をウォッチしているルポライターの昭島聡氏は、中国のSNS上でこのビザが日本の充実した社会福祉制度を享受するための「踏み台」として拡散されている実態を指摘しています。本稿では、昭島聡氏の著書『シン中国移民 彼らが日本に来る理由』を再編集し、このビザ制度が抱える課題と、日本の社会保障制度への影響について深掘りします。
日本の経営・管理ビザ取得を目指す外国人ビジネスパーソンのイメージ
「移住の踏み台」と化す経営・管理ビザの現状
本来、日本国内での事業活動を前提とする「経営・管理ビザ」ですが、いつの間にか一時的な滞在や他国への移動のための「踏み台」として利用されるケースが後を絶ちません。在留資格は国籍と異なり、一人の人物が複数の国でビザを取得し、使い分けることが可能です。実際、多くの国際的ビジネスパーソンや富裕層がこの仕組みを活用し、各国を往来しています。
特に、トランプ政権以降に強化された米国の移民政策を受け、アメリカへの滞在が困難になった中国人たちは、日本やシンガポールなどを新たな拠点と見定め、「どの国で最も有利に生活できるか」を見極めながら、合理的かつ戦略的にキャリアと生活の設計を進めています。中には、東アジアからドイツ、イタリア、オーストラリアへと移動を繰り返し、次々と在留資格を取得しては居住地を変える、いわば「現代の遊牧民」のような中国人も存在します。傍から見れば贅沢なライフスタイルに映るかもしれませんが、これは中国共産党の強い統制下で生きてきた彼らが選び取った、人生を懸けたリスクヘッジとも言えるでしょう。
500万円から3000万円へ:厳格化の背景と日本の社会保障制度
このような「経営・管理ビザ」の濫用に対し、日本の入管当局も無関心なわけではありません。近年は審査の厳格化が進められ、虚偽申請や実態のない事業に対しては、不許可はもちろんのこと、在留資格の取り消しや強制送還といった厳しい措置が講じられています。
しかし、現場では本来の趣旨を逸脱したケースが依然多く、「500万円で買える移住の通行手形」とまで指摘され、制度の信頼性が揺らぐ懸念が広がっていました。
「経営・管理ビザ」を取得すれば、日本での生活自体は決して難しくありません。しかし問題は、「住める」という事実だけにとどまらない点にあります。真に問われるべきは、そうして得た在留資格によって、日本人とほぼ同等の社会保障制度まで享受できてしまう構造そのものであると指摘されています。では実際に、中国人がこのビザを取得した場合、日本の社会保険制度はどこまで適用されるのでしょうか。
結論
「経営・管理ビザ」の要件厳格化は、制度の濫用を防ぎ、本来の目的である日本での事業活動を促進するための重要な一歩です。しかし、中国のSNSで拡散されるような「移住の踏み台」としての利用実態や、それに伴う日本の社会保障制度への影響は、依然として看過できない課題として残されています。今後の入管当局の運用と、社会保障制度における外国人の位置づけについて、継続的な議論と検証が求められるでしょう。
参考文献
- 昭島聡『シン中国移民 彼らが日本に来る理由』宝島社新書、2025年。