米国関税戦争、世界の自動車業界を揺るがす:収益急減とサプライチェーン再編の波

トランプ政権が主導した関税戦争は、世界の自動車業界の収益構造に深刻な揺らぎをもたらしている。2024年4月から6月期には営業利益が大幅に減少し、下半期には米国の関税に起因するサプライチェーン調整の余波で、さらなる損失拡大が予測されている。

自動車業界の分析によると、現代自動車やトヨタを含む主要グローバル自動車メーカー10社の4~6月期の業績を総合的に見ると、関税による損失規模は合計118億ドル(約1兆7420億円)に上った。これは新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降で、自動車業界が直面した最も大きな利益減少である。

世界の自動車メーカー、118億ドルの営業利益減:新型コロナ以来の打撃

グローバル自動車産業は、米国関税の直接的な影響を受け、2024年第2四半期に過去数年で最も厳しい収益性の悪化を経験した。各社が発表した業績報告からは、国際貿易政策の変動が企業財務に与える影響の大きさが浮き彫りになっている。自動車メーカーは、部品調達から生産、そして最終的な市場への供給に至るまで、サプライチェーン全体でコスト増に直面している。

トヨタ、関税と円高の「二重苦」で最大の損失

特に大きな打撃を受けたのは日本のトヨタ自動車だ。トヨタが7日に発表した4~6月期の決算では、売上高が12兆2533億円と前年同期比3.5%増加したものの、営業利益は1兆1661億円と10.9%もの減少を記録した。この大幅な利益減少の背景には、米国の関税政策の影響が強く表れている。

トヨタは、4~6月期の営業利益減少額のうち4500億円が米国関税によるものと推算しており、年間では最大1兆4000億円の損失が発生する可能性を指摘している。さらに、「円高ドル安」も利益を圧迫する主要因として作用している。昨年の1ドル=150円台から今年は140円台で推移する為替レートは、トヨタが今年の営業利益で最大7250億円の減少を見込む要因となっている。

他の主要メーカーも深刻な影響

トヨタに続き、フォルクスワーゲン(15億1000万ドル)、ゼネラルモーターズ(11億ドル)、フォード(10億ドル)、ホンダ(8億5000万ドル)、BMW(6億8000万ドル)、現代自動車(6億ドル)、起亜(5億7000万ドル)の順で、米国関税が業績に与える影響が大きかったことが確認されている。これは、主要な自動車生産国と販売市場が密接に関わっているグローバルなサプライチェーンにおいて、特定の国による関税措置が広範囲に影響を及ぼす実態を示している。

価格転嫁か、企業が吸収か:トランプ政権への懸念

関税によって業績に直撃弾を受けた自動車企業が、下半期に関税引き上げ分を製品価格に転嫁するかどうかが業界の注目点となっている。これまで各社は、消費者の離反を懸念し、価格上昇に対して慎重な姿勢を保ってきた。しかし、下半期も関税の負担を自動車企業が吸収し続ける場合、営業利益のさらなる減少は避けられない状況にある。投資銀行ジェフリーズのフィリップ・フショア氏は、自動車企業が値上げをためらう背景として、「他社が動く前に率先して動く会社はない」とし、「誰もがトランプ大統領のSNSで言及されることを恐れている」とウォールストリートジャーナル(WSJ)に語っている。

米国内生産強化で関税影響を最小化する戦略

世界自動車業界は、関税の影響を最小限に抑えるため、米国内での生産体制を強化する戦略を進めている。現代自動車グループは、2024年3月に米国内で210億ドル規模の投資計画を発表しており、この動きは関税リスクを回避し、市場アクセスを確保するための重要な一環と見られている。

米ジョージア州現代車グループの「メタプラントアメリカ」で、関税対策としてアイオニック9を運搬する自律走行ロボットの様子。米ジョージア州現代車グループの「メタプラントアメリカ」で、関税対策としてアイオニック9を運搬する自律走行ロボットの様子。

メルセデスベンツも米アラバマ州にSUV生産基地を移転するなど、生産拠点の最適化を進めている。ゼネラルモーターズ(GM)はインディアナ州フォートウェイン工場でシルバラードとシエラ・ピックアップトラックの生産を増やし、カナダでの生産を縮小する調整を行っている。日産自動車はテネシー州スマーナ工場でSUV「ローグ」の生産を拡大し、ホンダも米国工場で追加勤務体制を導入して生産量を増やす計画だ。これらの動きは、関税障壁を乗り越え、米国市場における競争力を維持するための企業努力として注目される。

単なる費用増加を超え、業界全体の構造再編へ

ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、自動車企業が関税費用の負担だけでなく、「今後数年間続く工場設備、サプライチェーン調整という構造的な課題に直面している」と指摘している。この分析は、関税戦争の余波が単なる一時的な費用増加にとどまらず、自動車業界全体の生産・調達戦略の根本的な再編につながる可能性を示唆している。グローバルな貿易政策の変化は、企業の長期的な投資計画やビジネスモデルそのものにも影響を及ぼし、自動車業界は新たな構造へと変革を迫られている。

関税戦争は、世界の自動車業界に短期的な利益減少だけでなく、長期的な戦略再編という大きな課題を突きつけている。各社は、生産拠点の見直しやサプライチェーンの再構築を通じて、変動する国際情勢に適応しようと努めている。この動きは、今後の自動車産業の地図を大きく塗り替える可能性があるだろう。