8月6日に広島で行われた平和記念式典を巡り、立憲民主党の米山隆一衆院議員と日本保守党代表の百田尚樹参院議員の間でX(旧ツイッター)上での激しい議論が展開されています。論点となっているのは、式典で述べられた「過ちを繰り返しません」という言葉の解釈です。この言葉が持つ意味、そしてそれが歴史認識にどう影響するのかについて、両氏の主張と、その言葉が刻まれた原爆死没者慰霊碑の真意を探ります。
立憲民主党の米山隆一衆院議員の肖像(2021年11月撮影)。平和記念式典の「過ち」に関する論争の中心人物。
論争の始まり:百田氏の主張と米山氏の反論
米軍による原爆投下から80年となる今年の平和記念式典で、挨拶に立った数名が「過ちを繰り返しません」と発言したことに対し、百田尚樹氏は自身のXで疑問を呈しました。百田氏は「広島市民も日本国民も原爆に関して何も過ちを犯していないし、その責任もない。過ちは米国が犯したものである」と主張。原爆投下の責任は米国にのみあり、日本に「過ち」は存在しないとの認識を示しました。
これに対し、米山隆一氏は百田氏のポストを引用する形で反論しました。米山氏は「ごく普通に解釈して、戦争を開始した日本にも過ちがあり、原爆を投下した米国にも過ちがあるという極めて真っ当な言葉でしょう」と指摘。さらに「戦争を開始した日本に過ちがないかのように言い募る事こそ、却って米国の過ちの認識をも失わせてしまう、過ったものです」と述べ、日本にも戦争を開始した責任があるという認識を強調しました。
百田氏の再反論と米山氏の強い意思
米山氏の反論に対し、百田氏は再びXを更新し、米山氏の解釈を「ごく普通の解釈ではなく、自虐史観と偽善に基づいた、捻じ曲がった解釈である」と批判しました。百田氏は、米山氏の解釈こそ「戦後日本の自虐思想による洗脳の深い病理の典型的な実例である」と断じ、自身の歴史観の正当性を主張しました。
これを受けて米山氏は、百田氏の投稿を再び引用し、「いいえ、ごく当然の解釈です。自虐史観でも偽善でもありません」と力強く再反論しました。米山氏は、「全く勝ち目のない戦争を始め、他国民のみならず、多くの自国民を飢えさせ、命を失わせて尚目算もなく戦争を継続したのは過ち以外の何物でもありません」と、日本の開戦と戦争継続が「過ち」であったことを明言。そして、「貴方は永遠に理解しないでしょうが、私達はその過ちを決して繰り返してはいけません」と、強い決意を表明しました。
「過ちを繰り返しません」碑文に込められた真意
「過ちを繰り返しません」という言葉は、原爆投下から7年後の1952年8月6日、平和記念公園に建立された原爆死没者慰霊碑に刻まれた碑文「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」に由来します。この言葉の「主語」を巡っては、建立当初から多くの議論が交わされてきました。
雑賀忠義教授の思想
碑文を揮毫した広島大学の雑賀忠義教授は、主語論争に対し、「広島市民であると共に世界市民であるわれわれが、過ちを繰り返さないと誓う。これは全人類の過去、現在、未来に通ずる広島市民の感情であり良心の叫びである。『原爆投下は広島市民の過ちではない』とは世界市民に通じない言葉だ。そんなせせこましい立場に立つ時は過ちを繰り返さぬことは不可能になり、霊前でものをいう資格はない」と反論しています。雑賀教授は、特定の国や民族に限定せず、人類全体が戦争という過ちを二度と繰り返さないという普遍的な誓いの意味を込めていたのです。
広島市の公式見解
広島市も碑文について、雑賀教授の思いと同じく「すべての人びとが原爆犠牲者の冥福を祈り、戦争という過ちを再び繰り返さないことを誓う言葉であり、過去の悲しみに耐え、憎しみを乗り越えて、全人類の共存と繁栄を願い、真の世界平和の実現を祈念する『ヒロシマの心』が刻まれている」としています。これは、「過ち」を特定の行為者の問題としてではなく、人類が共有すべき教訓と捉え、未来への平和を願うヒロシマの普遍的なメッセージとして位置づけています。
結論
米山隆一氏と百田尚樹氏の論争は、「過ちを繰り返しません」という言葉の解釈を通して、日本の戦争責任と歴史認識に関する根深い対立を浮き彫りにしました。しかし、原爆死没者慰霊碑に刻まれたこの言葉は、狭義の「誰の過ちか」を問うのではなく、戦争という人類が犯した普遍的な「過ち」を二度と繰り返さないという、ヒロシマから世界に向けた平和への強い誓いであると理解されています。この論争は、私たちが歴史とどう向き合い、未来へどう繋げていくべきかを改めて考える機会を与えています。
参考文献
- Yahoo!ニュース – 米山隆一氏が百田尚樹氏に「当然の解釈」と再反論 平和記念式典での「過ちを繰り返しません」巡り
- 日刊スポーツ – 米山隆一氏のXから
- X (旧ツイッター) 米山隆一氏、百田尚樹氏の投稿
- 広島大学資料
- 広島市公式見解