米国では今、偽情報や誤情報の拡散が深刻化。ファクトチェック機能の弱体化に加え、ドナルド・トランプ前大統領による根拠なき情報発信が背景にあります。
米国の偽情報拡散問題と関連するドナルド・トランプ前大統領
ファクトチェックとSNS規制の現状
米紙ワシントン・ポストは7月末、「ザ・ファクトチェッカー」担当の著名編集者が退職。米国ファクトチェックの象徴的存在であり、トランプ政権への追及鈍化が懸念されます。
SNS各社も規制緩和へ動いています。米メタは4月、米国での第三者機関を通じたファクトチェックを廃止。X(旧ツイッター)も陰謀論やヘイトスピーチ規制を緩め、トランプ氏の「検閲」批判に配慮したと見られます。この対応は「エリートと官僚機構が結託した『ディープステート(闇の政府)』に米国が操られている」といった陰謀論の拡散を助長。英「戦略対話研究所」によると、X上の陰謀論言及投稿は6月に約73万件と前年同月の6倍に急増、多くが米国アカウントからのものでした。
トランプ氏のメディア・政府機関への圧力
トランプ氏は自身に都合の悪い情報を発信する報道機関や政府機関へ圧力を強めています。
7月、未成年人身取引罪などで起訴された実業家エプスタイン氏との交流を報じたウォール・ストリート・ジャーナル紙を名誉毀損で提訴。
8月、雇用統計下方修正で労働市場の冷え込みが示されると、「共和党と私の評判を落とす不正操作だ」と根拠なく非難し、労働省統計局長解任を指示しました。
偽情報が招く社会の分断と不信
米非営利団体「ポリティファクト」によると、トランプ氏は就任後半年で虚偽発言・投稿を少なくとも33回繰り返しています。「戦略対話研究所」は、公人が裏付けのない主張を流布し、信頼できる報道機関をおとしめることが社会全体の「不信の空気」を助長すると警鐘。陰謀論が暴力行為の正当化につながり、社会の混乱や分断を招く恐れがあるとしています。
米国での偽情報拡散は、ファクトチェック低下、SNS規制緩和、主要政治家による情報操作といった複合的要因で加速しています。陰謀論が蔓延し「不信の空気」が社会安定と統一を脅かす深刻な問題です。民主主義社会において、正確な情報と信頼できるジャーナリズムの維持は不可欠であると再認識されます。