中国の「抗日戦争勝利80年」宣伝強化:愛国心高揚と日本政府の警戒

中国政府は、今年が戦後80年にあたることを「抗日戦争勝利80年」と位置付け、国家を挙げた愛国心高揚のための宣伝活動を強化しています。この動きは、中国共産党による統治の正統性を強調し、国民の求心力を高めることを主な狙いとしています。旧日本軍による加害行為に焦点を当てた映画が相次いで公開されるなど、そのプロパガンダは多岐にわたりますが、日本政府は過度な宣伝が日本への憎悪を煽りかねないとして、中国側に警戒を呼びかけています。(中国山西省陽泉 遠藤信葉、瀋陽 出水翔太朗)

習近平主席の「抗日」視察と求心力強化

中国山西省の山中に位置する陽泉市の「百団大戦記念館」は、今、団体客や親子連れで賑わいを見せています。この記念館は、1940年に共産党の八路軍が日中戦争中に日本軍に対して実施したとされる大規模作戦「百団大戦」を記念する施設です。

中国山西省陽泉市の百団大戦記念館で、抗日戦争における共産党の役割について説明を受ける来館者たち。中国山西省陽泉市の百団大戦記念館で、抗日戦争における共産党の役割について説明を受ける来館者たち。

館内には、建国の父である毛沢東の写真が飾られ、日本軍の多数の拠点を破壊したとされる「戦果」を誇らしげに展示しています。旧日本軍による被害を伝える展示の前では、両親を失った幼い兄弟とされる写真を見つめる男児に対し、母親が「日本人に(兄弟の両親が)殺された」と説明する光景も見られました。

国営新華社通信の報道によれば、習近平総書記(国家主席)は、日中戦争の発端となった盧溝橋事件から88年となる今年7月、この百団大戦記念館を訪問しました。習主席はそこで、「(百団大戦は)世界に中国共産党と人民の抗戦意志と力を示した」と強調。この時期、習主席はブラジルで開催された国際会議を欠席しており、対日抗戦関連の視察と宣伝活動が外遊よりも重視された形となりました。中国中央テレビの報告によると、同記念館の訪問者数は昨年同時期と比較して6倍に増加しているとのことです。

愛国心を育む抗日テーマ映画「南京写真館」の波紋

中国政府の宣伝活動の柱の一つとして、抗日戦をテーマにした映画が挙げられます。特に注目される3本の目玉作品のうち、旧日本軍による「南京事件」(1937年)を題材にした映画「南京写真館」は、7月下旬に封切られました。夏休み期間中ということもあり、多くの親子連れがこの映画を観賞しており、興行収入は18億元(約369億円)を突破し、今年公開された映画の中では3位となる大ヒットを記録しています。

中国政府による「抗日戦争勝利80年」の記念キャンペーンと主要な愛国宣伝活動の概要を示す図。中国政府による「抗日戦争勝利80年」の記念キャンペーンと主要な愛国宣伝活動の概要を示す図。

この映画の舞台は、旧日本軍が占領していた南京にある写真館です。物語は、日本兵が中国人を銃殺する場面などを撮影したフィルムを中国人が現像させられるという設定で展開します。予告編が公開されて以来、その内容の残虐性について中国のSNS上では懸念の声も上がりました。しかし、新華社通信が「大きくなったら兵士になる」と泣きながら語る5歳の少女の動画を投稿するなど、官製メディアは子どもの純粋な反応を利用して愛国心の高揚を図っています。

中国遼寧省瀋陽の映画館に掲示された、旧日本軍による南京事件を描いた映画「南京写真館」のポスター。中国遼寧省瀋陽の映画館に掲示された、旧日本軍による南京事件を描いた映画「南京写真館」のポスター。

中国政府による「抗日戦争勝利80年」を巡る大規模な宣伝活動は、国内の結束強化と共産党の統治正当性の確立を目指すものです。歴史認識を政治的ツールとして活用するこの動きは、中国国民の愛国心を高める一方で、その過剰な表現は隣国である日本との関係に緊張をもたらし、さらなる憎悪感情を煽りかねないという懸念が日本政府から示されています。この問題は、今後の日中関係の動向を左右する重要な要素として注視されています。


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