沖縄の半導体産業:TSMC進出と「シリコンビーチ」構想の現在地

台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出が九州の半導体業界に活況をもたらす中、海を隔てた沖縄でも半導体産業への関心が高まっています。アジア地域への地理的近接性や若年層が豊富な人口構造は、半導体関連企業の誘致において有利な要素と見られており、国も「シリコンビーチ」構想を掲げ、その実現を支援しています。しかし、大規模な工場群を誘致し、集積させるだけのインフラ基盤はまだ十分ではなく、沖縄独自の最適な発展経路を模索する段階にあります。

世界をリードする沖縄発の技術力

沖縄うるま市でテルル化カドミウム半導体を製造するアクロラドの大野良一相談役とジョン・エルウッド社長沖縄うるま市でテルル化カドミウム半導体を製造するアクロラドの大野良一相談役とジョン・エルウッド社長

「独自の強みがあれば、沖縄でも世界に通じる半導体を生み出すことは可能です。」と語るのは、沖縄本島中部に位置するうるま市の工業団地に本社を置く半導体関連企業アクロラドの大野良一相談役(69)です。同社は、世界トップレベルの市場占有率を誇る自社製品を手に、その可能性を示しています。

アクロラドは、沖縄県内で唯一の半導体チップメーカーとして、大手鉱業会社から独立した大野氏らが2000年に沖縄で本格的に事業を開始しました。沖縄を選択した決め手は、自治体が提示していた税制優遇などの積極的な企業誘致策であったといいます。同社が製造するのは、革新的な「テルル化カドミウム」という化合物を用いた半導体です。これは、X線やガンマ線などを高精細に画像化するセンサーに用いられ、従来のX線検知装置に比べ、より鮮明な画像で詳細な分析が可能という特長を持っています。医療用機器を中心に市場を拡大しているほか、欧州宇宙機関(ESA)の人工衛星にも採用されるなど、その技術は国際的にも高く評価されています。

事業拡大のため、アクロラドは2011年に独機械大手シーメンスの傘下に入り、同社から社長を迎えました。操業開始当初は約20人だった従業員は現在100人規模に増え、大野相談役は「さらなる工場の拡大も検討しており、独自の技術力を武器に今後も成長を続けたい」と、力強い意欲を示しています。

アクロラドと同じ工業団地内には、ナノシステムソリューションズも本社を構えています。この半導体製造装置メーカーは、沖縄県の支援を受け、2015年に東京から移転してきました。平本和之社長は「沖縄をものづくりの重要な拠点にしていきたい」と述べ、新たな事業展開にも前向きな姿勢を見せています。

「シリコンビーチ」構想:沖縄の戦略と挑戦

内閣府沖縄総合事務局の調査によると、現在沖縄県内には10社以上の半導体関連企業が進出しています。沖縄を新たな半導体産業の集積地として育成するため、同局は2023年に「シリコンビーチ」構想を提唱しました。この構想に基づき、地元の企業同士の連携を強化するためのフォーラムも開催されるなど、産業振興に向けた具体的な取り組みが進められています。

しかし、TSMCのような大規模な半導体工場を誘致し、関連企業を呼び込むためには、安定した電力供給、豊富な工業用水、専門人材の育成、高度な物流網など、さらなるインフラ整備が不可欠です。沖縄の「シリコンビーチ」構想は、これらの課題を克服しつつ、独自の強みを活かしたニッチ分野や研究開発、テスト・パッケージングといった分野での発展を目指すなど、現実的な道を模索しながら推進されています。沖縄がアジアの玄関口としての地理的優位性と、新たな技術革新の拠点としての可能性をどこまで広げられるか、今後の動向が注目されます。

Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/234a35bc73df90bb39f73356dafab7ec84b8cca3