「最近、親が以前より怒りっぽくなった」「話しかけても落ち着きがない様子が見られる」──もし身近な高齢者にこのような変化が見られるなら、それは認知症の症状の一つである「アジテーション(焦燥・興奮)」かもしれません。聞き慣れない言葉かもしれませんが、この症状を理解し適切に対処することは、本人だけでなく介護する家族のストレス軽減にも繋がります。本記事では、専門医の見解を交えながら、アジテーションの症状とその対応策について詳しくご紹介します。
「アジテーション」は認知症の行動・心理症状(BPSD)の一つ
多くの方がアルツハイマー型認知症と聞いて、「物忘れ」や「時間・場所の認識障害」といった中核症状を思い浮かべるかもしれません。しかし、認知症の症状はそれだけに留まらず、徘徊、妄想、そして今回のテーマである「アジテーション」のような行動や心理面での変化も伴います。これら行動・心理症状は「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」と呼ばれており、アジテーションはその中でも、イライラ、攻撃的な言動、落ち着きのなさ、焦燥感といった形で現れる症状を指します。
認知症の行動・心理症状(BPSD)の一つであるアジテーションに苦しむ高齢者の様子
浅香山病院の認知症疾患医療センター長を務める繁信和恵氏は、アジテーションについて「うつ病などの精神疾患でも見られるため、認知症に特有の症状ではありません」と説明します。さらに、認知症を発症する前の段階であるMCI(軽度認知機能障害)の時期にも、攻撃性や焦燥感が見られることがあるため、アジテーションの出現と認知症の進行度には直接的な関連性は薄いと考えられています。ただし、繁信氏は「同じアジテーションという症状であっても、認知症の進行度によって“症状の質”が異なる」と指摘します。
認知症の進行度と「アジテーション」の「質の変化」
MCIの段階にある場合、患者本人はなぜイライラしているのか、何に不安を感じているのかを言葉で伝えることが比較的容易です。しかし、認知症が進行し認知機能が低下すると、自分の感情や身体の状態を正確に言葉で表現することが難しくなります。
よく見られるパターンとして、便秘や皮膚のかゆみ、耳垢の詰まりといった身体的な不快感を家族や周囲の人にうまく伝えられず、その結果、怒り出してしまったり、落ち着きなく動き回ったりすることが挙げられます。これは、認知症の進行により、自身の不快感を認識したり、それを適切な言葉で表現したりする能力が低下するためです。身近な高齢者の言動に気になる変化が見られた際には、専門医チームが作成した「BPSD出現予測マップ」などを参考に、状況を理解しようと努めることが大切です。
家族が「アジテーション」に気づいたら:専門家への相談を
アジテーションは、認知症患者本人だけでなく、介護する家族にも大きな精神的負担をもたらす可能性があります。そのため、親や身近な高齢者の行動に変化を感じたら、早めに専門家へ相談することが推奨されます。専門医は、アジテーションが何らかの身体的苦痛から来ているのか、それとも環境の変化や精神的な要因によるものなのかを評価し、適切な対応策や治療法を提案してくれます。また、家族が抱える不安や疑問についても、専門的な視点から具体的なアドバイスを得ることができ、介護の質を向上させる上でも非常に重要です。
アジテーションは、認知症の多様な症状の一つであり、その背景には言葉では伝えられない本人の苦痛や不安が隠されていることがあります。この症状を正しく理解し、専門家と連携しながら適切なケアを行うことで、認知症の高齢者とその家族がより穏やかに日々を過ごせるようサポートすることが可能になります。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 「最近、親が妙に怒りっぽい」…それ、認知症の「アジテーション」という症状かも