「なぜ?」という問いが、一見、論理的思考を促す「良い質問」と思われがちですが、実は対話における「最悪の質問」となる可能性があります。特に子育ての場面では、この問いかけが予期せぬ摩擦を生むことも少なくありません。本記事では、長年の経験を持つ対話のプロが提唱する「なぜ」と聞かない質問術、すなわち「事実質問」の重要性とその実践方法を深掘りします。効果的なコミュニケーションを通じて、より良い人間関係を築くためのヒントを探りましょう。
「なぜ?」が子育てで致命的なNG発言となる理由
私たちはつい子どもに対して、「どうして勉強しないの?」「なんでゲームばっかりやってるの!」といった言葉をかけてしまいがちです。夏休みのような自由な時間が増える時期には、特にこうした声かけが増えるのではないでしょうか。親としては、「ちゃんと過ごしてほしい」「勉強に励んでほしい」という善意から出る言葉です。しかし、この「理由を問い詰める」言い方は、子どもにとって“圧のある詰問”と受け取られる危険性があります。
詰問と化す「なぜ?」:子どもの心に生じるプレッシャー
例えば、子ども自身がどこかで「このままではまずいな」と自覚している状況を想像してみてください。宿題がたまっている、ゲームの時間が長くなってきたといった漠然とした認識があるときに、「なんでまだやってないの?」「どうして勉強しないの?」と問い詰められるとどうなるでしょうか。子どもは言い訳をしたり、ごまかしたり、時には不機嫌になって反発してくるかもしれません。
しかし、その行動の裏側にあるのは、「責められている」「問い詰められている」という感覚です。これは、親と子という立場の差があるからこそ生まれる“プレッシャー”に他なりません。親としては単なる問いかけのつもりでも、子どもにとっては「叱られた」「責められた」というネガティブな体験となってしまうのです。
良い質問が育む信頼関係:対話する親と子どもの様子
会話を好転させる「事実質問」の力
では、このような状況で、より良い対話の糸口を見つけるにはどうすれば良いのでしょうか。重要なポイントは、「理由」ではなく「事実」を聞くことです。つまり、「どうして?」という問いを、「いつ?」「何を?」「どれくらい?」といった、具体的で中立的な質問に置き換えていくのです。このアプローチにより、相手にプレッシャーを与えることなく、客観的な状況整理を促すことができます。
「事実質問」実践例:「いつ?」「何を?」「どれくらい?」で引き出す自主性
具体的な例で比較してみましょう。
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良くない聞き方:
- 「どうして勉強しないの?」
- 「なんでまだ宿題やってないの?」
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良い聞き方(事実質問):
- 「夏休み始まってから、今って何日くらい経ったっけ?」
- 「そういえば、最近宿題やったのっていつだった?」
- 「日記って、今何日分くらい残ってるのかな?」
このように、「ただの確認」という形で事実をたどっていくと、子ども自身が自然と状況を“整理”し始めます。「えっと、夏休み入ってからもう半分くらい?」「宿題?…あ、最後にやったのは先週かも」といった具合に、自ら状況を認識するようになります。その結果、親が叱らなくても、子ども自身が「やらなきゃ」と内発的に思えるようになるのです。
子育てに限らず、対話は、どちらかが質問し、相手がそれに答えることから始まります。良好な人間関係の基本には、質の高いコミュニケーションがあり、その出発点には、相手を尊重し、状況を明確にする「良い質問」が存在するのです。
結論
本記事では、「なぜ?」という問いが持つ潜在的なリスクと、それを克服するための「事実質問」の有効性を解説しました。子育てからビジネス、そしてあらゆる人間関係において、この具体的な質問術は、相手にプレッシャーを与えることなく、状況を客観的に整理させ、自発的な行動を促す強力なツールとなります。対話の質を高め、より建設的なコミュニケーションを築くために、ぜひ「事実質問」を日々の会話に取り入れてみてください。
参考文献
『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』中田豊一 著 (ダイヤモンド社)