現在開催されている甲子園では、暴力行為が発覚した広陵高校の出場辞退や、熱中症が疑われる選手への対戦相手選手による水分補給の差し入れに拍手が送られるなど、従来の「常識」とは異なる光景が繰り広げられています。かつて「愛のムチ」と称され、当たり前とされてきた部活動の指導や慣習は、今、大きな見直しが迫られる過渡期にあります。しかしその裏では、過去の壮絶な経験がトラウマとして深く残る大人たちが少なくありません。弁護士ドットコムニュースが、学校の部活動や地域のスポーツクラブにおける経験談を募集したところ、読者から数多くの悲痛な告白が寄せられました。
「愛のムチ」と称された暴力の実態
「ケツバットなどがありましたが、個人的には愛のムチだったと思っています」と、高校野球部出身の千葉県在住30代男性は振り返ります。しかし、寄せられた大半の声は、指導やしごきの名を借りた「暴力」がいかに日常的で、心を蝕むものだったかを克明に物語っています。
「退部を申し出たら顧問にボコボコに殴られ、顔面に3カ月の重傷を負った生徒がいた」(埼玉県・70代・男性・陸上部)。これは指導ではなく明らかな暴行です。
水分補給の厳禁や、ミスに対する過度な体罰も横行していました。「水分補給は厳禁。飲んだら体罰を受けた。ミスをすると、先を外した竹刀で太ももを叩かれ出血した」「靴で太ももを叩かれ、靴底の跡が残るほどだった」(福岡県・61歳・女性・バレーボール部)。こうした行為は、選手を育成するどころか、心身に深い傷を負わせるものです。
バレーボール部だった愛知県在住の50代女性は、学校のグラウンド掃除中、顧問が何かを勘違いし、部員を何度も殴る光景を目撃しました。「怖くて何も言えなかった」という言葉は、当時の異常な空気と恐怖を如実に示しています。
指導と暴力の境界線:人格否定と「しごき」
暴力は、殴る蹴るといった直接的な体罰にとどまりません。人格を否定するような言葉の暴力、そして常軌を逸した「しごき」も深刻な問題でした。兄弟が千葉県の私立高校に通っていたという東京都の50代男性は、「野球部員が2名の体育教師からリンチを受け、鼓膜を破られる事件があった」と証言します。
終わらないトラウマと風化への懸念
驚くべきことに、この加害者の教員は軽い処分で済まされ、後に大学教授になったと男性は指摘しています。そして、「このような暴力犯罪があったことやそれに対する制裁が異常に軽かったことは風化しかけています」と強い懸念を表明しています。読者から寄せられたこれらの悲痛な叫びと告白は、「愛のムチ」という言葉が、どれほど多くの暴力行為を覆い隠し、被害者を苦しめてきたかを浮き彫りにしています。
甲子園での出来事と部活動の指導に関するイラスト
部活動やスポーツ指導における暴力は、決して「愛」でも「指導」でもありません。それは、子供たちの成長の機会を奪い、心に深いトラウマを残す有害な行為です。過去の経験に苦しむ人々の声に耳を傾け、二度と同じ過ちが繰り返されないよう、社会全体で指導のあり方と体罰の根絶について真剣に向き合う必要があります。未来の世代が安心してスポーツに取り組める環境を築くことが、私たち大人の責任です。