米国で大卒若者が「就職氷河期」直面か?IT系は特に深刻、AI台頭が影響

米国では、大学を卒業したばかりの若者たちが「就職氷河期」とも言える厳しい状況に直面しています。特に、これまでの経済成長を牽引してきたIT大手企業での採用が冷え込んでおり、生成AI(人工知能)の台頭が新入社員レベルの仕事を代替し始めていることがその背景にあります。マイクロソフトやグーグルといった一流企業でのキャリアを夢見て学んできた多くの若者たちが、就職先を見つけられずにいます。

米国コロンビア大学の卒業式を待つ学生たち。大卒者の就職状況が厳しさを増している背景。(ニューヨーク、2025年5月21日)米国コロンビア大学の卒業式を待つ学生たち。大卒者の就職状況が厳しさを増している背景。(ニューヨーク、2025年5月21日)

厳しい現実に直面する米国大卒者たち

今春、米中西部の名門パデュー大学でコンピューターサイエンスの学位を取得して卒業したある女性は、1年間の就職活動にもかかわらず、ファストフード店の週10時間の仕事の面接にしか呼ばれなかったとSNSで窮状を訴えました。彼女は米メディアの取材に対し、自身の経歴であれば「初任給で6桁(10万ドル以上、日本円で約1500万円以上)の給与が約束されてきた」と、現在の厳しい状況に対する戸惑いを語っています。

データが示す若年層雇用の悪化

米国ではコロナ禍以降、大卒以上の若者の失業率が労働人口全体の失業率を上回る傾向にあり、その差は拡大しています。ニューヨーク連邦準備銀行のデータによると、2024年4月時点で大卒以上の22~27歳人口の失業率は5.8%と、全体の4.0%より1.8ポイント高く、この差は過去最大を記録しました。

専攻別に見てみると、「コンピューターサイエンス」の若者の失業率は6.1%、「コンピューター工学」は7.5%に達し、「哲学」の3.2%よりも高い数値を示しています。米国では長年、コンピューター関連の学位は就職に最も有利とされ、学生からの人気も非常に高かったのですが、かつての「売り手市場」は終焉を迎えたと見られています。

生成AIの台頭と企業の採用戦略の変化

このような変化の背景には、生成AIの急速な台頭が指摘されています。短時間でプログラミングコードの作成などをこなせる生成AIは、多くの新卒レベルの職務を代替できる可能性を秘めています。ある米エコノミストは、「新卒レベルの職種はAIに置き換えたり、少なくともタスクの一部を担わせたりすることが可能」と分析し、AIの方が新卒に割り当てられることが多い作業において優れていると述べています。

また、米企業はトランプ政権の高関税政策などを巡る先行き不透明感を背景に、新規採用に慎重な姿勢を見せています。これらの要因が重なり、特に打撃を受けやすい新卒は「就職氷河期状態で、雇用市場全体の足を引っ張っている」(日系証券)と見られています。

結論

米国における大卒若者の就職市場は、IT業界の採用冷え込みと生成AIの進化により、かつてない厳しい局面を迎えています。これは、単なる景気変動だけでなく、技術革新が雇用構造そのものに与える影響の大きさを示唆しています。企業はAIを活用し、より効率的な業務体制を構築する一方で、若者たちは自身のスキルセットとキャリアパスを見直す必要に迫られています。

参考文献: