日本人の国内旅行離れ?訪日外国人増加で高まる「観光公害」と「居心地の悪さ」の実態

近年、日本を訪れる外国人観光客の数は飛躍的に増加し、過去最高の記録を更新し続けています。国土交通省が発表した『観光白書2025年版』によると、2024年には年間延べ3687万人が訪日し、これはコロナ禍前の2019年と比較して15.6%増という驚異的な伸びを示しています。また、外国人旅行消費額も8兆1,57億円に達し、2019年比で68.8%増と、経済に大きな恩恵をもたらしていることは間違いありません。

その一方で、日本人の国内旅行客数には停滞感が見られます。同調査では、2024年の日本人による国内観光消費額は過去最高の25.1兆円を記録したものの、旅行客数は5億4000万人と、2019年の5億9000万人を下回る結果となりました。消費額は増えているにもかかわらず、なぜ日本人は旅行に出かけなくなっているのでしょうか。「日本人の旅行離れ」とも呼ばれるこの動向の背景には、インバウンド需要の急増に伴う新たな課題が横たわっています。

日本の観光地で増加する外国人観光客のイメージ。日本人の旅行意欲低下の背景にある「観光公害」の現状を暗示する風景。日本の観光地で増加する外国人観光客のイメージ。日本人の旅行意欲低下の背景にある「観光公害」の現状を暗示する風景。

「どこに行っても外国人ばかり」日本人旅行者が感じる心理的障壁

かつては積極的に旅行を楽しんでいた日本人旅行者が、なぜ今、国内旅行に消極的になっているのでしょうか。その一因として、多くの人が「どこへ行っても外国人観光客が多いこと」を挙げています。

神奈川県在住の会社員Aさん(40代男性)は、コロナ禍前は大型連休や年末年始には必ず旅行に出かけるほどの旅行好きでした。しかし、ここ数年は旅行とは縁遠くなっています。「有名な観光地は外国人であふれかえっているというニュースをしょっちゅう目にしますし、実際、住んでいる神奈川の中華街や鎌倉も以前にも増して外国人で賑わっていると聞きます。旅行には行きたいのですが、名所や人気の飲食店に長時間並ぶのは億劫で……」とAさんは語ります。

さらにAさんは、外国人観光客の多さが生む心理的な「居心地の悪さ」についても言及します。「どこに行っても外国人ばかりだと、逆に居心地が悪く感じるんです。外国語メニューがばっちり備えられているようなお店だと、『僕は場違いなのかな』という気持ちになってきてしまい、そういう卑屈な気持ちになるのも自己嫌悪に陥ります。旅行の思い出が行列や外国人の多さになるのは避けたいので、しばらくは家でおとなしく過ごすつもりです」。

治安への懸念と「オーバーツーリズム」の現実

外国人観光客の増加は、混雑だけでなく、一部では治安やマナーに関する懸念にもつながっています。東京都在住の会社員Bさん(20代男性)も、学生時代は国内外を頻繁に旅行していましたが、今年は近場へすら出かけなくなったと言います。その理由は「どこに行っても疲れそう」だからだそうです。

「箱根ぐらいなら、週末に車で日帰り温泉に入って蕎麦を食べて帰るというのをよくやっていました。でも、昨年泊まったホテルの部屋のテレビが鎖に繋がれていたんです。聞けば、外国人が盗むことがあるからだそうで……。治安の悪化を感じました」とBさんは語ります。さらに、彼が宿泊した日も外国人観光客だらけで、「一部の人たちは朝食のバイキング会場を食べ散らかしていたり、大浴場では大声で騒いだりしていて、全然落ち着けませんでした。箱根ですらこうなんだから、他の観光地も同じような状況だろうと思うと、どこも落ち着けない気がして、しばらく旅行はお休みです」。

こうした体験は、まさに「オーバーツーリズム」や「観光公害」と呼ばれる現象の一端を示しています。観光客の増加が、地域住民や日本人旅行者の日常生活、あるいは旅行体験にネガティブな影響を与える状況です。観光地の混雑やサービスの質の低下、文化的な摩擦、そして一部におけるマナー違反は、日本人旅行者の「旅行意欲の低下」に直結していると考えられます。

日本の観光振興における課題と展望

訪日外国人観光客の増加は日本経済にとって大きなプラスである一方で、国内旅行客数の伸び悩みや、一部で顕在化する「観光公害」の問題は、今後の日本の観光政策における重要な課題となっています。旅行代金の高騰だけでなく、こうした心理的・物理的な障壁が、日本人旅行者の「国内旅行離れ」を加速させている可能性は否定できません。

外国人観光客との共存を図りつつ、日本人旅行者にとっても快適で魅力的な国内旅行体験を提供するためには、観光地の分散化、インフラ整備、多文化共生教育、そして適切なマナー啓発など、多角的なアプローチが求められるでしょう。日本が真の観光立国を目指すには、全ての旅行者が快適に過ごせる環境を整備し、持続可能な観光モデルを構築することが不可欠です。


参考文献:

  • 国土交通省 観光庁. 『観光白書2025年版』. (最新の発表に準拠)
  • 各社報道: 日本人の旅行離れ、インバウンド増加による影響に関する記事