スイスの高級時計メーカーであるスウォッチは、アジア人を嘲笑する表現として批判を浴びていた「つり目」を連想させる広告画像について謝罪し、全世界から撤去する措置を取りました。この広告は、中国のソーシャルメディア上で激しい非難の的となり、製品の不買運動へと発展する可能性を秘めています。
問題の広告と批判の経緯
スウォッチが公開した問題の広告には、モデルが両手で目尻を引き上げているポーズが写し出されていました。このポーズは、歴史的にアジア人を侮辱する際に用いられてきた人種差別的な「つり上がった細い目(slanted eye)」を想起させるとして、中国のソーシャルメディアユーザーの間で急速に拡散され、激しい批判にさらされました。批判の声が高まるにつれて、中国国内ではスウォッチ製品のボイコットを求める動きが活発化しました。
スウォッチの「つり目」表現で批判を浴びた広告画像。モデルが目尻を指で引き上げている様子が写されている。
スウォッチの対応と続く反発
スウォッチは8月16日、この描写に関する懸念を受け、「今回のことが招いたかもしれない苦痛や誤解に対し、心よりお詫び申し上げる」との声明を発表しました。同社は、「この問題を非常に重視しており、直ちに全世界で関連の素材をすべて削除した」と説明しました。しかし、この謝罪声明をもってしても、中国の消費者からの批判が収まることはありませんでした。
中国最大のソーシャルメディア「微博(ウェイボー)」では、多くのユーザーがスウォッチの対応に不満を表明しました。「スウォッチは利益を恐れているだけだ」「謝罪はしても、私は彼らを許さない」といった厳しいコメントが投稿され、「私たちから利益を得ながら、それでも中国人差別をするのか。ボイコットして中国から締め出さないなら、我々は根性なしだ」と、さらなる不買運動を呼びかける声も上がりました。
中国市場とグローバルブランドの課題
ロイター通信によると、スウォッチは総収益の約27%を中国、香港、マカオ地域から得ています。しかし、現在の中国では景気後退の影響で売り上げが減少傾向にあると報じられています。スウォッチグループは、オメガ、ロンジン、ティソといった世界的に有名な時計ブランドも傘下に抱えています。
近年、中国の消費者は自国の文化や国益が侮辱された、あるいは脅かされたと感じた際に、外国ブランドに対する不買運動を組織する傾向が強まっています。例えば、2021年には、H&M、ナイキ、アディダスといったグローバルファッションブランドが、中国新疆ウイグル自治区での人権侵害疑惑に懸念を表明したことで、中国国内で大規模なボイコット運動に直面しました。
また、昨年には日本の衣料品大手ファーストリテイリングが運営するユニクロが、新疆産の綿花を使用していないと発表したことを受け、一部で不買運動が起こりました。さらに遡ること2018年には、イタリアの高級ファッションブランドであるドルチェ&ガッバーナが、中国人モデルが不器用に箸を使ってイタリア料理を食べる動画広告を公開し、人種差別的だと批判を浴びました。この広告は、中国人女性をステレオタイプ化し、差別的に描いているとして、同ブランドは中国の主要な電子商取引サイトから製品が引き上げられ、上海でのファッションショーも中止に追い込まれるなど、深刻な打撃を受けました。
結論
スウォッチの「つり目」広告を巡る騒動は、グローバルブランドが中国市場で直面する複雑な文化的・社会政治的課題を改めて浮き彫りにしました。企業の謝罪にもかかわらず、消費者の反発が収まらない現状は、中国市場の消費者が持つブランドへの期待と、彼らの文化的・国民的アイデンティティに対する極めて高い敏感性を示しています。今後、国際的なブランドは、文化的な表現やマーケティング戦略において、これまで以上に慎重な配慮が求められるでしょう。
参考資料
- BBC News. (2025年8月18日). Swatch sorry for ‘slanted eyes’ ad after China uproar.
- Reuters. (日付不明). スウォッチの中国での収益および景気後退に関する報道。