7月の参議院選挙期間中、多量の偽情報や誤情報が蔓延しました。特に深刻だったのは、外国人を巡る情報操作です。「犯罪行為が増加している」「外国人が不当に優遇されている」といった論調が、政府や報道機関によるファクトチェックにもかかわらず、SNSや街頭演説で繰り返し拡散され、外国人への敵視や排斥を促す言動が飛び交いました。なぜ誤った情報は広がり続け、ファクトチェックは届かないのでしょうか。本稿では、この問題にどう向き合うべきか、専門家の見解を基に考察します。
外国人への否定的な感情は本当に強いのか?
参院選で突如として争点に浮上した外国人問題について、移民政策や差別問題に詳しい大阪大学の五十嵐彰准教授は、「外国人問題が突然やり玉に挙がったことに非常に驚いた」と述べます。五十嵐准教授の研究によると、国際的な比較において、日本は外国人の移民に対する否定的な感情がそれほど強くない国であるとされています。その日本で、外国人問題が国政選挙の主要な争点に急浮上することは「予測できなかった」と五十嵐准教授は指摘します。
現実と乖離する「認知のゆがみ」
近年、円安を背景に訪日外国人観光客や在留外国人は爆発的に増加しており、2025年には年間4千万人規模に達する勢いです。しかし、これに伴って犯罪件数が増えているわけではありません。むしろ、外国人による刑法犯の検挙件数は過去20年間で大きく減少しています。
参議院選挙期間中、外国人に関する偽情報に抗議する市民の様子
しかし、多くの人々が抱くイメージは、こうした現実とは異なるようです。五十嵐准教授の研究チームが行った実験では、過去1年間の国内刑法犯のうち何パーセントが外国人によるものか尋ねたところ、参加者の平均回答は30%でした。これは実際の5%という数値と大きく乖離しており、五十嵐准教授は「年間3千万人を超える訪日観光客を含めても5%というのは、実は非常に少ない」と述べます。この回答のずれは、外国人と犯罪を結び付ける「認知のゆがみ」が存在することを示唆しています。
誤情報に対処するために
偽情報は、客観的な事実に基づかない情報によって、人々の認識を歪め、社会に分断をもたらす可能性があります。参議院選挙で顕著になった外国人に関する偽情報の拡散は、ファクトチェックが行われてもなお、誤解が広がり続けるという深刻な課題を浮き彫りにしました。この「認知のゆがみ」を是正し、健全な議論を促すためには、メディアや専門機関による正確な情報提供の継続、そして市民一人ひとりが情報源を吟味し、批判的に思考するリテラシーの向上が不可欠です。誤情報に流されることなく、事実に基づいた理解を深める努力が、今後の社会の安定には欠かせません。
外国人への誤解と現実の乖離を示すデータに関する図解
参考資料
- 共同通信社
- Yahoo!ニュース: 参議院選挙の際、偽情報に対して抗議の声を上げる人たち (2025年8月18日)
- 47NEWS: 「参政党のモデルは共産党と公明党です」 元共産党員の創立メンバーが明かした組織体制・資金獲得の秘密とは (2025年8月18日)