「体育会系は就職に有利」という話を一度は耳にしたことがあるかもしれません。果たしてこの認識は現代社会において、どれほどの実態を伴っているのでしょうか。夏の甲子園が熱戦を繰り広げ、その舞台裏で高校の運動部にまつわる不祥事が報じられる中、「体育会系人材の採用」に関する議論が再燃しています。特に、企業が体育会系の学生を評価する背景には、これまで語られてこなかった「ハラスメント耐性」という側面があるのではないか、との指摘が注目を集めています。
広陵高校問題から浮上した「ハラスメント耐性」論争
今年の夏、甲子園に出場したものの、1回戦後に辞退した広陵高校野球部を巡っては、SNS上で暴力事案が告発され、運動部に根深く残る悪しき風習が改めて社会問題として浮き彫りになりました。この一件を受け、SNS上では「運動部の悪しき伝統はなかなか変わらない」「強豪校ほど体質改善が困難」「理不尽な慣習がまかり通っている」といった批判的な投稿が相次ぎました。
その中で、特に大きな波紋を呼んだのが「広陵高校の件で確信した。企業が体育会系人材を欲しがるのはハラスメント耐性があるから」という投稿です。この見解は瞬く間に拡散され、一定の共感を得るに至りました。確かに、これまで体育会系人材は「上下関係を理解し、忍耐強く、組織に順応しやすい」と評価されてきた背景があります。今回の騒動は、体罰や厳格すぎる規律が正当化されない時代になったことを示す一方で、「理不尽を我慢できる人を立派とみなす価値観」がいまだ社会に根強く残っている可能性を指摘した形です。
甲子園を舞台に活躍する高校球児。彼らの経験は就職活動でどのように評価されるのか
企業が体育会系人材を求める本当の理由:専門家の見解
では、実際のところ企業は本当に体育会系の学生を優遇しているのでしょうか。そして、その主な理由は本当に「ハラスメント耐性」なのでしょうか。就職支援事業を手がけるザッツ株式会社の代表取締役、阿部勝哉氏にこの疑問をぶつけてみました。阿部氏はまず、企業が体育会系学生を好む傾向は「現在でも根強く存在する」と明言します。
阿部氏によると、その理由は多岐にわたるといいます。「体育会系学生には、規律性や自己管理能力、ストレス耐性、そして何よりもチームで目標達成を目指す協調性など、組織内で成果を出すために必要な資質が備わっていると高く評価されています。日々の厳しい練習を通じて培われるこれらの能力は、ビジネスの現場においても非常に重要視されます」。
さらに、就職活動における具体的なアドバンテージも指摘されています。「体育会系の学生は、OB・OGとの強固なネットワークを持っているケースが多く、これが情報収集や企業との接点を作る上で有利に働くことがあります。また、部活動での経験は、具体的な目標設定、それに対する努力、成果といった形で定量的に語りやすく、自己PRとして非常にアピールしやすいという側面も評価される傾向にあります」。
阿部氏の見解は、「ハラスメント耐性」という一部の指摘だけでなく、より本質的なビジネススキルや人間性が評価されていることを示唆しています。もちろん、過去の「理不尽を乗り越える」といった体育会系の負の側面が完全に払拭されたわけではありませんが、現代の企業が求めるのは、単なる忍耐力以上の、より汎用性の高いポータブルスキルであると言えるでしょう。
結論:変化する社会と体育会系人材の評価
体育会系学生が就職において依然として有利な立場にあるという傾向は、専門家の見解からも裏付けられました。しかし、その理由は単に「ハラスメント耐性」だけではなく、規律性、自己管理能力、ストレス耐性、協調性といった、組織で成果を出すために不可欠な多角的な資質にあります。
広陵高校の件が提起した「悪しき風習」や「理不尽」といった問題は、体育会系の文化が社会の変化にどう適応していくべきかという重要な問いを投げかけています。企業は、過去の慣習に囚われず、真に組織に貢献できる人材を見極める必要があります。そして、体育会系の学生自身も、単なる経験や根性論に終わらず、自身の経験から何を学び、どのようにビジネスの場で活かせるかを明確に言語化する力が、今後ますます求められるでしょう。
企業と学生双方にとって、より健全で、本質的な評価基準に基づく採用活動が確立されることが期待されます。