大手進学塾「ena」の幹部社員が複数の校舎に宛てた7月11日付の社内メールは、「今回の合宿は今までと違う。」という威圧的な特大太字の文で幕を開けた。「世の中、他塾は、我々がこの合宿で失敗したら『そら、見たことか』と野次馬根性満々で我々の合宿の結果を伺(ママ)っています。」と続くその「檄文」は、さらに驚くべき内容を含んでいた。「本部は、特に学院長は炎上上等くらいに思っています。つまり、言いたいことは言わせておけ。最後はenaがしっかり成功させて世の中を、他塾を見返してやる。(略)つまり、絶対に失敗はできません」──。この強烈な言葉が指す「今回の合宿」とは、8月2日からenaが富士山周辺で実施している22泊23日にも及ぶ異例の夏期講習合宿のことです。この「超長期合宿」はニュース番組でも大きく取り上げられ、そのユニークな試みが話題を呼んでいますが、その裏側で、講師陣が大量に退職しているという衝撃的な事実が「週刊文春」の取材で明らかになりました。
大手学習塾enaとは? 成功の陰に潜む問題
創業53年を迎えるenaは、都内を中心に約230校舎を展開する大手学習塾です。特に都立中高一貫校の受験対策に強みを持つとされ、塾の発表によれば、都立中高一貫校で14年連続合格実績ナンバーワンを誇ります。都立中の定員1800名に対し、ena受講生の占有率は実に64.2%にも及ぶとされており、その指導力と実績は業界内で高く評価されてきました。
運営会社の学究社は東証プライム上場企業であり、前年度の売上高は132億8991万円に上ります。創業者であるena学院長の河端真一取締役会長兼代表執行役CEO(74)は、慶應義塾大学入学と同時に学習塾を設立し、生徒5人からスタートして大学卒業時には1500人まで拡大させたという、まさに立志伝中の人物として知られています。
同社が今年3月に公表した中期経営計画では、『超長期合宿』を成長戦略の柱に据え、昨年の10泊11日の夏合宿をさらに長期化した22泊23日の合宿を強行しました。この夏合宿の参加費用は一人50万円と高額で、スマホの持ち込み禁止、テレビなしの環境で1日12時間の勉強漬けという、まさに「軍隊式」とも評される厳しいプログラムが組まれています。しかし、この画期的な試みの陰で、看過できない問題が進行していたのです。
5カ月間で45名以上の社員が退職か? 異常な離職率の実態
この「超長期合宿」の裏側で社員の大量退職や法令違反の疑惑が浮上していると指摘するのは、今年5月にenaを辞めた元校長です。彼は「高額な授業料に見合った教育を提供できていないのが実情です」と証言しています。
学究社本部。大手学習塾enaの運営元で、大規模な夏合宿と社員退職問題が報じられている
具体的には、今年3月から7月までのわずか5カ月間で、個別指導部門では社員37人中約3分の1にあたる13人が、集団指導部門(小中学部)では約190校舎ある中で15人の校長(地区長との兼任者、校長代理含む)が退職あるいは退職届を提出していたことが判明しました。元校長は「新年度時点では約450人の社員がいましたが、現在までに45人以上が退職あるいは退職届を出しました。通常、2~3月上旬に受験が終わって新学期に入るタイミングで、生徒を送り出した講師たちの転職による退職が集中するものですが、大事な夏を前にこれだけの人数が辞めたのは異常です」と、その異常性を強調しています。
これらの大量退職について学究社に尋ねたところ、同社は次のように回答しました。「当社においては、授業担当者の勤務時間が14時から22時と一般から比較すると遅く、そのために特に女性社員において退職率が高いことは否めません。『45~50名の社員の退職』は確認できませんが、例年、正社員600名中、ある程度の人数が退職されます。本年に限ったことではありません。230校の校舎中、何名かの校長が退職したのは事実です。教員試験に合格しなかった、アカデミックポストを得られなかった、司法試験等に合格しなかったがゆえに当社に職を求める新卒者も多く、それらの者の願いが叶った場合、例年温かく送り出しています」(その後、5月以降の校長の退職者数は12人と回答)
パート社員97名「首切り」問題と法令違反疑惑
さらに問題は、社員の大量退職だけに留まりませんでした。受付業務を担っていたパート社員97人が、5月末で一方的に“クビ”になっていたという衝撃的な事実も明らかになりました。これは労働基準法上の解雇手続きや、雇用調整助成金などの活用など、適切な対応が取られたのかという疑念を抱かせます。
enaの社内メールで配信された「炎上上等」の檄文。夏季講習の成功を強く求める内容が記されている
「炎上上等」という言葉で、批判すらも恐れない姿勢を示したenaの「超長期合宿」。その華々しい成果の裏で、このような大規模な人材流出と労働問題が発生していることは、高額な学費を支払う保護者や、教育の質を問う社会全体にとって、決して看過できない問題です。この状況は、学究社の企業倫理とガバナンス体制に疑問を投げかけています。
学究社の社外取締役には、テレビ番組などでもおなじみの山口真由氏や三浦瑠麗氏が名を連ねています。彼女たちは、これらの問題に対し、どのような見解を示し、企業統治の責任をどのように果たすのでしょうか。詳細な情報は現在配信中の「週刊文春 電子版」に掲載されています。
参考文献
- Source link – 週刊文春(Yahoo!ニュース配信記事)