大手メーカー、都心から「ゆかりの地」へ本社回帰の動き加速 – リモート普及と連携強化が背景

東芝や富士通をはじめとする日本を代表する大手メーカー各社が、これまで拠点を置いていた都心の一等オフィスビルから、工場や研究開発拠点など、企業としての歴史や技術の「ゆかりの地」へと本社機能を回帰させる動きを加速させています。この傾向の背景には、リモートワークの普及によるオフィスに対する価値観の変化と、研究開発・製造現場と経営企画部門間の連携強化という明確な戦略があります。

東芝:川崎への移転で「縦割り組織」の打破へ

約40年間にわたり東京・芝浦の高層ビルに本社を構えていた東芝は、現在、川崎市内のビルへの引っ越し作業を進めています。役員室や経営企画部門は既に移転を完了し、残る広報部門なども月内には移る予定です。芝浦は東芝の社名の由来となった地ですが、移転先の川崎もかつて白熱電球工場があったゆかりの深い場所です。現在も研究部門などが集積しており、本社機能が一箇所に集まることで、「社内組織が縦割りで連携が取れていない現状の打破」(同社関係者)を目指しています。

富士通:創業の地・川崎に機能集約、テクノロジーパークへ再開発

富士通もまた川崎市に本社を構える大手メーカーです。昨年、東京・汐留にあった本社機能や点在していた研究開発部門を、創業の地である川崎に集約しました。創立当初からの主要拠点であった川崎工場は「テクノロジーパーク」と改称され、最先端技術の実証実験が可能な施設へと再開発が進められています。これにより、イノベーション創出の加速が期待されます。

ニコン:約100年の歴史を持つ地へ回帰、地域交流も促進

光学機器大手のニコンは昨年、約100年前に拠点を設けた東京・西大井の閑静な住宅街に自社ビルを新築し、品川駅前の大型オフィスビルから本社を移転しました。移転後、近隣の小学生を招いて顕微鏡を使った観察会を開催するなど、地域との交流を深める活動にも力を入れています。同社広報担当者は、「ニコンが地域に戻ってきたと温かく受け入れてもらえており、大変うれしい」と語っています。

東芝が本社を移転した川崎市幸区のビル外観。大手メーカーの本社移転戦略とリモートワークの影響を示す象徴的な風景。東芝が本社を移転した川崎市幸区のビル外観。大手メーカーの本社移転戦略とリモートワークの影響を示す象徴的な風景。

シャープ:利便性重視で大阪都心へ再移転、人材確保狙う

一方で、異なる戦略を取る企業もあります。シャープは、2016年に大阪市から堺市に移した本社を、2026年に再び大阪市内に戻す計画です。経営危機を受けて堺市の工場内に移転していましたが、今後は利便性の高い大阪の中心部に本社を置くことで、優秀な人材の確保や、取引先との接点拡大につなげたい考えです。

結論

日本を代表する大手メーカーの間で進む本社移転の動きは、単なるコスト削減に留まらず、リモートワーク時代の新たな働き方、そして研究開発や事業戦略における社内連携の強化を追求する企業戦略の一環として捉えられます。シャープのように都心回帰を選ぶ企業も存在するものの、多くの企業が自社のルーツや技術開発の現場に拠点を置くことで、企業文化の再構築とイノベーションの加速を目指していることが伺えます。

参考文献