教科書や参考書だけの学習では太刀打ちできないとされる渋谷教育学園幕張中学校(渋幕)の入試問題は、地政学や野鳥の知識など、時に大学入試レベルの問いが出題されます。しかし、これらの問題には、単なる知識の有無を超え、知的好奇心旺盛な受験生だけが解ける仕掛けが隠されています。東大合格者を多数輩出する渋幕が、本当に重視している力とは何か。本記事では、その核心に迫ります。
中学受験の参考書とペンを手に考える生徒のイメージ写真。渋幕入試で問われる思考力と好奇心を象徴。
渋幕が育む「自調自考」の精神と入試問題の関連性
入試問題には、その学校が育成したい生徒像が色濃く反映されます。私立校には独自の建学の精神があり、その実現に向けて教育カリキュラムが設計されるため、入試はその学びの入り口と言えるでしょう。渋幕の場合、「自調自考」(自ら調べ、自ら考えること。近年では「自らを調べ、自らを考える」という意味へと深化)の力を伸ばすこと、倫理感を正しく育てること、国際人としての資質を養うことが建学の精神に掲げられています。この精神に基づき、あらゆる教育活動が軸足に置かれ、それは当然、入試問題にも影響を与えています。
入試に共通する「読解力」「思考力」「好奇心」の重要性
渋幕の入試の傾向として顕著なのは、国語・算数・社会・理科の全4教科で文章量が非常に多い点です。他の難関校と比較しても、長文が出題されるため、極めて高い「読解力」が求められます。学園長講話の中でも教養が重視されていることから、日頃から活字に親しむ習慣が合否を分ける一因となっていると考えられます。
また、「思考力」も強く問われます。近年の中学入試全般で思考力が重視される傾向にありますが、渋幕ではそれが特に顕著です。国語・社会・理科の各教科において、単に知識を詰め込むだけの学習では太刀打ちできず、知識をいかに活用し、応用するかが問われます。
そして、これらの知識を広げたり応用したりするために最も重要なのが、「好奇心」です。実際に卒業生の一人は、「好奇心をもって考えることが好きでなければ、あの入試問題を解こうとは思わないのではないか」と語っています。これは、渋幕が求めているのが、単に「勉強ができる子」ではなく、「学びを楽しむことができる子」であることを示唆しています。
大学受験レベル?社会科「地政学」問題から見る渋幕の問い
具体的な例として、社会科の入試問題を見てみましょう。2023年の二次入試では、以下のような問題が出題されました。
地政学という言葉があります。それは簡単にいえば、「国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考えること」をいいます。次の地図のように世界には、日本のように海に囲まれた国や、内陸部でたくさんの国と国境を接している国もあります。その国の置かれた環境によって、政治や経済などの考え方も変わってきています。
例えばインド(A)は、インド亜大陸のほとんどを領有する連邦共和制の国家です。世界では第7位の国土面積と第2位の人口を持つ国であり、南にはインド洋があり、南西のアラビア海と南東のベンガル湾に挟まれています。都市部と農村部の経済格差は大きく、多くの人々が貧困に苦しんでいます。
シンガポール(B)は、マレー半島先端部にある小さな島国です。少ない国土ではありますが、経済的には、アジア有数の豊かな国となっています。
問 2022年2月に始まるロシアのウクライナ侵攻後、国際連合がロシアを非難する決議を重ねましたが、インドは全て棄権しました(2022年10月現在)。その理由を、インド北部の地政学的な要因と、それに関わる具体的な国名を1つあげて、解答用紙のわく内で説明しなさい。※ただし、「けん制」という言葉を必ず使用してください。
正直なところ、大人から見ても難解であり、大学受験レベルと評される問題です。この問題は、単なる暗記知識を問うものではなく、与えられた情報から背景を想像し、自身の幅広い知識と結びつけ、それを論理的に記述する力を求めています。時事ニュースや国際情勢、日本の伝統など、多角的な視野と、それらを総合的に捉える「思考力」が試される良問と言えるでしょう。
結論
渋谷教育学園幕張中学校の入試問題は、単に学力を測るだけでなく、受験生が持つ「読解力」「思考力」、そして何よりも「知的好奇心」の深さを問いかけるものです。これからの時代を生き抜くために必要な「自調自考」の精神を体現できる生徒を求めていると言えるでしょう。渋幕を目指す受験生は、日々の学習で知識を深めるだけでなく、社会への関心、多様な情報から学び取る姿勢、そして物事の本質を深く考える習慣を身につけることが、合格への鍵となります。
参考資料
- 佐藤 智 (2025). 『渋幕だけが知っている「勉強しなさい!」と言わなくても自分から学ぶ子どもになる3つの秘密』飛鳥新社.