ロシアの深刻な人口危機:ウクライナ侵攻が加速させる社会・経済的影響

ロシアは長年にわたり、国家にとって知られたくない深刻な人口問題に直面してきました。数十年にわたり出生数を死亡数が上回り、国民の大量流出が続くなど、人口動態の悪化が深刻化しています。ロシア政府は人口減少を食い止めるため必死の努力を重ね、ウラジーミル・プーチン大統領は人口増加を国家の最優先課題と位置づけ、「母親資本」の増強計画を進めてきましたが、ロシアの人口は一向に増加せず、減少の一途をたどっています。

長期化する人口動態の悪化

ロシアの人口問題は、ウクライナ侵攻によってここ3年余りで著しく悪化しました。政府が戦闘継続のために常に新たな兵士を必要とする中、国民の国外への流出が記録的なペースで進行しています。特に2022年秋にロシア政府が動員令を発令して以降の大規模な人口流出について、米紙ワシントン・ポストは「1917年のロシア革命や1991年のソビエト連邦崩壊時の移民の波に匹敵する規模の大変動」と評しています。

イタリア・フィレンツェに拠点を置く欧州大学院(EUI)が昨年実施した調査結果は、この「頭脳流出」が容易には止まらない可能性を示唆しています。調査対象となった外国に居住するロシア人の過半数が、ウクライナ侵攻が終結しても母国に戻る意向がないと回答しており、ロシアが抜本的な政治改革を行わない限り、この傾向は続くとみられます。

ウクライナ侵攻による影響の深刻化と労働力不足

ウクライナ侵攻は、特にロシアの男性労働人口に壊滅的な影響を与えています。ロシアでは今夏、ウクライナ侵攻による死傷者が100万人を突破したと報じられており、これは労働力の大幅な減少を意味します。

現在入手可能なすべての統計は、ロシアが本格的な人口危機に陥っている実態を浮き彫りにしています。ロシア国家統計局が昨年秋に発表した統計によると、同国の出生率は四半世紀で最低水準に落ち込み、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)は約1.4と、人口維持に必要とされる2.1を大きく下回っています。同国の人口動態は極めて深刻な状況にあるため、ロシア国家統計局は最近、公式統計の公表を全面的に中止するという異例の措置を取りました。

ロシアの首都モスクワ、赤の広場を歩く人々ロシアの首都モスクワ、赤の広場を歩く人々

このような状況が経済に与える影響も甚大です。アントン・コチャコフ労働相は先月中旬の閣議でプーチン大統領に対し、ロシアは現在深刻な労働力不足に直面していると報告しました。同相は、2030年までにロシア経済には少なくとも240万人の追加労働者が必要になると説明していますが、他の推計では同国の労働力不足はさらに大きく、300万人以上になるとされています。

結論

ロシアの人口危機は、単なる統計上の問題にとどまらず、国家の安定、経済成長、そして社会の持続可能性に深く関わる根源的な課題です。ウクライナ侵攻がこの問題をさらに加速させている現状は、ロシアの将来に長期的な影を落とすものとして、国際社会からも注視されています。人口動態の悪化が労働力不足を深刻化させ、国家の経済基盤を揺るがす可能性は、今後もロシアの政策決定における主要な要因となるでしょう。

参考文献