韓国の李在明大統領は、日本の石破茂首相との首脳会談を控え、2015年の日本軍「慰安婦」被害者関連の韓日合意や強制動員被害に対する第三者弁済案など、過去の政権下で行われた日韓間の合意を維持する方針を明らかにした。これは、米国による通商圧力など緊迫した国際情勢の中で、日韓両国の協力深化の必要性を反映したものだ。しかし、被害者団体や歴史団体からは「過去の政府の過ちを繰り返すものだ」として強い反発の声が上がっている。
過去の合意維持と国民感情への配慮
李大統領は読売新聞の単独インタビューに応じ、「国家間関係において政策の一貫性や国家政策に対する対外信頼を考慮すべきだ」と述べた。その一方で、「国民、被害者、そしてその一族の立場も真剣に考える二つの責任を同時に背負っている」との認識を示した。特に、朴槿恵政権下で締結された日韓「慰安婦」合意については、「この合意が国民的同意を得られず、被害者の方々もこれを受け入れることができなかったのは明確な限界」であると指摘しつつも、「2015年の(慰安婦)合意が両国政府間の公式合意であるという韓国政府の立場には変わりがない」とし、これを覆す意向がないことを明確にした。
歴史問題への真摯な対応要求と未来志向の関係構築
しかし、李大統領は過去の歴史問題に関して繰り返し、「事実を正確に直視し、互いに傷にならない範囲内で解決するために努力しなければならない。おわびは傷ついた心が癒されるまで真剣に心からすまなかったと言うのが正しい」と強調し、日本政府による真摯な謝罪を求めた。
ソウル大統領室で開かれた首席補佐官会議で発言する李在明大統領。日韓関係の政策方針について言及した
さらに、「韓国と日本が互いに力になれる関係へと大転換されることを望む。金大中大統領と小渕首相による『日韓共同宣言』を引き継ぎ、これを超える新しい共同宣言を発表することができればと思う。それにのっとった発展的な未来志向的な日韓関係を築こうとしている」と述べた。これは、1998年の金大中大統領と小渕恵三首相の合意に準じ、韓国国民への謝罪と日韓両国の未来志向的なパートナーシップを盛り込んだ新たな合意を引き出す意向を示すものだ。
国際情勢と協力の必要性
李大統領が、自身の支持層からの反発が大きい保守政権時代の歴史問題をめぐる合意を受け入れてまで日韓協力を強調したのは、国際舞台で両国の協力の必要性が高まっている状況を反映している。慶南大学極東問題研究所のチョ・ジング教授は、「緊迫する国際情勢の中で、日韓が協力する空間が大きくなったことについては、日本側も陣営を越えて共感している。李大統領とのインタビューも、日本国民に協力の用意ができているというメッセージを伝えるためとみられる」との見解を示した。
被害者・歴史団体からの反発
しかし、歴史団体は李大統領の方針に一斉に反発した。「韓日歴史正義平和行動」は同日、ソウル鍾路区の香隣教会で記者会見を開き、「李在明政権が進めるべきなのは、過去に日本政府が犯した日帝植民支配と侵略戦争の不法性を明確に直視し、日本政府の公式謝罪、法的賠償を受けることだ」と強調した。
北朝鮮非核化に関する新見解
このインタビューで、李大統領は北朝鮮の非核化問題についても言及した。李大統領は「第1段階で核とミサイル(の開発)を凍結させ、第2段階で縮小させ、第3段階で非核化を目指さなければならない」と述べ、北朝鮮の核問題に対する段階的な非核化解決策に言及したのは今回が初めてとなる。
結論
李在明大統領の今回の発言は、日韓関係における過去の合意維持と未来志向の協力強化という二つの側面を打ち出しつつ、歴史問題における日本の真摯な謝罪を改めて要求するという複雑な外交戦略を示している。国際情勢の緊迫化を背景に日韓協力の重要性を認識する一方で、国内の被害者感情や歴史団体の反発も考慮せざるを得ない状況が浮き彫りとなった。北朝鮮の非核化に関する新たな段階的アプローチは、今後の地域安全保障にどのような影響を与えるか注目される。
参考文献
- 読売新聞
- ハンギョレ