ロシアのプーチン大統領がウクライナとの和平交渉において、国境を接するウクライナ東部の「ドンバス地方」全域の割譲、北大西洋条約機構(NATO)加盟の断念とウクライナの中立化、さらには西側諸国の軍隊の国外退去を要求していることが、複数の関係筋によってロイターに明らかになりました。この詳細な提案内容は、ロシアのジャーナリストによって報じられるのは初めてとなります。
15日には米アラスカ州アンカレジで、プーチン大統領とトランプ米大統領が会談し、3時間の大部分をウクライナを巡る妥協案の検討に費やしたと報じられています。ロシア側の関係筋によると、プーチン大統領は2024年6月に提示した領土要求から若干の妥協を示したといいます。
ロシアの新たな和平案:領土要求と安全保障の条件
プーチン大統領の以前の要求は、東部のドネツク州とルハンスク州で構成されるドンバス地方に加え、南部ザポリージャ州とヘルソン州の計4州の割譲でした。これら4州は、ロシアが一方的に併合を宣言している地域です。
新たな提案では、プーチン大統領はウクライナが現在も支配するドンバス地方からのウクライナ軍の完全撤退という要求を維持しつつも、ザポリージャ州とヘルソン州については現在の戦線での停戦を表明しました。さらに、ロシアが現在支配下に置いているハルキウ州、スムイ州、ドニプロペトロウスク州の小規模な地域は、引き渡す用意があることも示唆されています。米国の推計とオープンソースデータによれば、ロシアはドンバス地方の約88%、ザポリージャ州とヘルソン州の約73%を制圧している現状です。
安全保障に関する要求も維持されており、ウクライナのNATO加盟断念、NATOの東方拡大を法的に拘束する誓約、ウクライナ軍の制限、そして平和維持軍の一部としての西側諸国軍隊のウクライナ地上展開の禁止が盛り込まれています。
ドンバス地方で撮影されたウクライナ軍の兵士。プーチン大統領はウクライナ和平交渉でドンバス全域の割譲を要求している。
ウクライナ側の断固たる拒否と国際社会の反応
ウクライナのゼレンスキー大統領はこれまで、国際的に承認された自国領土からの撤退を取引の一部とすることに繰り返し否定的です。工業地帯であるドンバス地方は、ウクライナ深部へのロシアの侵攻を阻む要塞の役割を果たすと考えています。21日の記者団向けのコメントでは、「単に東部から撤退するという話であれば、そんなことはできない。最強の防衛線が絡んだわが国の存亡に関わる問題だ」と強調しました。
また、NATOへの加盟はウクライナ憲法に明記された戦略目標であり、最も信頼できる安全保障の一つであるとの認識を示し、加盟の決定権はロシアにはないと述べました。
米シンクタンクのランド研究所でロシア・ユーラシア政策を担当する政治学者サミュエル・チャラップ氏は、ウクライナにドンバス地方からの撤退を求めることは、政治的にも戦略的にも解決策にはなり得ないと指摘しています。チャラップ氏は、相手側にとって受け入れ難い条件での「和平」に対する前向きな姿勢は、トランプ氏に向けたパフォーマンスである可能性もあると分析しました。
プーチン氏の新たな提案に対するウクライナ外務省、米ホワイトハウス、NATOからの公式コメントは、現時点では得られていません。
結論
プーチン大統領の新たな和平提案は、領土要求において若干の柔軟性を示しつつも、ドンバス地方の割譲やウクライナのNATO加盟断念といった核心的な要求を堅持しています。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は自国領土からの撤退を断固として拒否しており、国際的な専門家も現在の条件での和平成立の困難さを指摘しています。この状況は、ウクライナ紛争の解決がいまだ複雑かつ困難であることを示唆しており、今後の国際社会の動向が注目されます。
参照文献
- Guy Faulconbridge. (2025年8月21日). ロシアのプーチン大統領、ウクライナ和平で「ドンバス割譲」など要求. ロイター通信. https://news.yahoo.co.jp/articles/4a99a262869a77ae9decea3c3885fc4ae26bd4f1