赤十字国際委員会(ICRC)のジル・カルボニエ副総裁は21日、横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の会場で毎日新聞のインタビューに応じ、日本がアフリカでの地雷対策を支援する新たな枠組みの設立を発表したことを「非常にタイムリーで、極めて意味のある取り組みだ」と高く評価しました。日本のこの積極的な関与は、世界の人道支援において重要な一歩と見られています。
TICAD9会場でインタビューに応じるICRCのジル・カルボニエ副総裁。日本のアフリカ地雷対策支援について語る
日本が推進する「アフリカ地雷対策プラットフォーム」
日本が設立するのは「アフリカ地雷対策プラットフォーム」です。これはカンボジアの地雷対策センター(CMAC)や国連地雷対策サービス部(UNMAS)と連携し、地雷や不発弾対策に取り組むアフリカ各国の職員を対象とした研修などを行うものです。アフリカ大陸では20カ国以上で過去の内戦などにより地雷や不発弾の被害が依然として続いており、日本のこの取り組みは現場のニーズに直接応えるものと期待されています。
非人道的な地雷被害の実態
カルボニエ副総裁は、地雷や不発弾がもたらす非人道的な影響を強く訴えました。「私たちICRCのスタッフは壊滅的な影響を目の当たりにしてきた。民間人、特に幼い子どもが手足を失い、視力を奪われてきた。人生を一変させ、生涯にわたる障害をもたらす」と述べ、罪のない人々、特に子供たちが被る深刻な被害を強調しました。これらの兵器は、紛争終結後も長期間にわたり地域住民の生活を脅かし、社会経済発展の大きな足かせとなっています。
オタワ条約の危機と日本の指導力への期待
日本は今年、対人地雷禁止条約(オタワ条約)の締約国会議で議長国を務めます。しかし、この条約を巡る状況は近年厳しさを増しています。非締約国のロシアがウクライナ侵攻で地雷を使用し、ウクライナも防衛を理由に条約からの脱退を表明しました。この脱退の動きがバルト3国を含む欧州にも広がりを見せていることに対し、カルボニエ氏は「非常に憂慮すべき傾向であり、これを止め、逆転させなければならない」と強く警鐘を鳴らしました。
さらに、「地政学的な緊張が高まれば人道法は無視してよいという、危険なメッセージを送ることになりかねない」と指摘。国際秩序の根幹を揺るがしかねないこの動きに対し、日本がオタワ条約からの加盟国離脱による後退を防ぐために、国際社会でリーダーシップを発揮することへの強い期待を示しました。
核軍縮に続く「地雷対策の道徳的リーダーシップ」
来年はアフリカ南部のザンビアがオタワ条約の議長国を務める予定です。カルボニエ副総裁は、「日本はアフリカを支援するだけでなく、ともに協力して取り組みを前進させられると信じている」と、日本とアフリカの連携の重要性を強調しました。
また、日本が被爆者の声を通じて核兵器の恐ろしさを世界に伝え、核軍縮で果たしてきた「道徳的リーダーシップ」は、地雷対策においても意識を高めるためのモデルになり得ると指摘しました。地雷の廃絶と被害者支援における日本の役割は、核軍縮における貢献と同様に、国際社会からの注目を集めています。
まとめ
日本による「アフリカ地雷対策プラットフォーム」の設立は、TICAD9における重要な発表であり、ICRC副総裁からも高い評価を受けました。しかし、対人地雷禁止条約(オタワ条約)を巡る国際情勢は緊迫しており、一部の国による条約からの脱退の動きは、国際人道法の根幹を脅かす危険性をはらんでいます。このような状況下で、日本が核軍縮で培ってきた「道徳的リーダーシップ」を地雷対策分野でも発揮し、国際社会の協調を促す役割が強く期待されています。日本の積極的な外交と人道支援が、世界の地雷問題を解決し、より安全な未来を築くための鍵となるでしょう。