名古屋主婦殺害事件26年目の逮捕:元同級生の「ストーカー気質」と深い執着心に迫る

1999年に名古屋市で発生した主婦殺害事件は、発生から26年という長い年月を経て、容疑者の逮捕に至りました。この事件の容疑者が被害者夫の高校時代の同級生であったこと、そして長期間にわたり被害者への執着を抱き続けていたとされる報道は、社会に大きな衝撃を与えています。臨床心理士の岡村美奈氏が指摘するストーカー加害者の分類から、事件の背景に潜む犯行への道筋を深く探ります。

26年を経て明らかになった衝撃の事実と容疑者の執着

1999年11月、名古屋市西区で発生した主婦殺害事件は、2025年10月31日、ついに安福久美子容疑者(69歳)の逮捕という形で新たな局面を迎えました。被害者は当時32歳の高羽奈美子さんで、安福容疑者が持参したとみられる刃物で刺され、命を落としました。逮捕後も多くの謎が残るこの事件の動機について、これまでの情報から特に注目される点が二つあります。一つは容疑者の持つ「ストーカー的気質」の可能性、もう一つは、容疑者の結婚生活や家庭が彼女自身の望む形ではなく、不満を抱えていたのではないかという点です。

被害者の夫である高羽悟氏は、高校時代に同級生で同じ部活動に所属していた安福容疑者から一方的な好意を寄せられていたと証言しています。バレンタインデーのチョコレートやラブレター、さらには大学時代に大学まで押しかけて帰りを待ち、声をかけてくる行為もあったといいます。喫茶店に連れて行った際には泣き出され、対応に困ったという夫の言葉は、当時の安福容疑者の強い執着心を物語っています。当時は「ストーカー」という言葉がまだ一般的ではありませんでしたが、現在の視点から見れば、これらの行動は明確なストーカー行為と捉えることができます。相手に振り向かれなくても付きまとうという、その執着心の強さが事件の根底にあった可能性が浮上しています。

名古屋主婦殺害事件で逮捕された安福久美子容疑者の高校時代の姿と、事件発生当初に公開された警察の似顔絵名古屋主婦殺害事件で逮捕された安福久美子容疑者の高校時代の姿と、事件発生当初に公開された警察の似顔絵

ストーカー行為とその動機:事件の背景を読み解く

ストーカー行為とは、特定の人に対し、繰り返し接近したり付きまとったりする行為全般を指します。ある調査研究では、その動機として「恋愛感情」「復讐心や怒り」、あるいは「恋愛感情と怒りが混じり合ったもの」が挙げられています。過去には元交際相手に殺害された事件や、ファンによる殺害事件など、ストーカーが関与する凶悪な事件が後を絶たず、社会問題として常に深刻な関心が寄せられています。これらの事件は、単なる感情のもつれに留まらず、被害者の生命を脅かす危険性をはらんでいます。安福容疑者のケースにおいても、長年にわたる執着がどのような動機へと発展し、最終的に悲劇を引き起こしたのか、その心理的背景の解明が求められています。

ストーカー加害者の5つの類型:専門家による心理分析

オーストラリアの研究機関では、ストーカー加害者の行動パターンを理解するため、対象や対象との関係性、動機、そして精神病理性の有無から、以下の5つの類型に分類しています。臨床心理士の岡村美奈氏も、こうした分類を元に今回の事件の可能性を推測しています。

  1. 拒絶型(Rejected Stalker): 夫婦や恋人など、親密な関係性が壊れることをきっかけとするタイプです。強い復讐心を抱き、相手が受ける苦痛や被害に対して無頓着であるとされます。
  2. 憎悪型(Resentful Stalker): 自分が相手からひどい扱いを受けている被害者であると思い込むタイプです。相手に恐怖や不安を与えることを主な目的とします。
  3. 親しくなりたい型(Intimacy Seeking Stalker): 強い孤独感や、相談できる友人がいないことを背景に持つことが多いです。相手の気持ちを顧みず、一方的なアプローチを執拗に続けます。現実との乖離が見られることもあります。
  4. 相手にされない求愛型(Incompetent Suitor Stalker): 比較的短期的な行動が多いとされます。自分の気を引いた見知らぬ他人や憧れの対象と交際する権利があると信じ込み、相手の気持ちを理解せずに関わろうとします。高羽悟氏への安福容疑者の初期の行動は、この類型に近い側面も考えられます。
  5. 略奪型(Predatory Stalker): 常軌を逸した性的嗜好や興味のために相手を尾行し、盗撮や覗き見、さらには力の行使などを行うタイプです。

安福容疑者の行動をこれらの類型に当てはめてみると、「相手にされない求愛型」や「親しくなりたい型」の要素が指摘できる一方で、26年という長期間の執着には、満たされない自身の人生に対する「憎悪型」の要素が加わった可能性も考えられます。

結論

名古屋主婦殺害事件における安福久美子容疑者の逮捕は、長期未解決事件の捜査の執念を示すとともに、人間の深い執着心とストーカー行為の危険性を改めて浮き彫りにしました。被害者夫への高校時代からの執拗な好意、そして自身の結婚生活の不満といった個人的な背景が、26年という時を経て凶悪な犯罪へと繋がった可能性が専門家によって指摘されています。この事件は、ストーカー行為の初期段階における認識の重要性と、その潜在的な危険性に対する社会全体の理解を深める必要性を私たちに問いかけています。

参考文献