【ソウル発】今年6月に韓国がチェコ共和国ドコバニ原子力発電所の新規建設事業を本契約で受注したことに対し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が今年1月に米国の原発企業ウェスチングハウス社と締結した契約が「不平等」であるとの議論が韓国国内で巻き起こっている。この契約は、韓国の原発輸出戦略における米国の技術的影響力と、その代償について深く考える契機となっている。
チェコ・ドコバニ原子力発電所の新規建設プロジェクト鳥瞰図。韓国水力原子力公社が受注を目指す案件。
「屈辱的契約」の内訳:多額の技術使用料と機材購入
今回問題視されている契約条項は、韓国電力公社(KEPCO)と韓国水力原子力(KHNP)が、今後50年間にわたり原発を1基輸出するごとに、ウェスチングハウスに対し技術使用料として1億7500万ドルを支払い、さらに6億5000万ドル相当の機材を購入するというものである。合計で1基あたり8億ドルを超える支払いが発生することになる。
さらに、この契約にはKHNPが北米、欧州連合(EU)域内、英国、ウクライナ、日本といった主要市場で新たな原発事業を受注しないことへの合意や、次世代原発として注目される小型モジュール原発(SMR)を輸出する際には、米国側の承認が必須となる条項も含まれている。これらの内容が「屈辱的契約」とまで呼ばれるゆえんだ。
ウェスチングハウスの「技術宗主国」としての影響力
これらの条項が受け入れざるを得なかった背景には、ウェスチングハウスが商業用原子炉の重要技術の多くを保有しているという現実がある。韓国の原発産業は1971年の古里(コリ)原発1号機建設を皮切りに発展してきたが、その初期段階からウェスチングハウスの技術に大きく依存してきた歴史がある。実際、韓国がアラブ首長国連邦(UAE)やチェコに輸出する原発モデル「APR1400」にも、同社の技術が多用されているとウェスチングハウスは主張している。
原発技術の「宗主国」である米国は、自国の技術が含まれる原子力関連製品や技術を第三国に輸出する際、米国政府の事前許可を義務付けている。これは、重要技術を保有するウェスチングハウスの同意なしには、韓国単独での海外輸出が極めて困難であることを意味する。2009年のUAEバラカ原発事業においても、計測制御システム(MMIS)や冷却材ポンプなど、ウェスチングハウスの技術が使われている分野については、事前に同社の同意を得ており、関連部品の供給を受けていた。この時の機材購入規模は、総事業費186億ドルの約10%とされている。
チェコ原発契約の現実:避けられない選択か
チェコ・ドコバニ原発の場合、当初、KHNPと韓国政府はウェスチングハウスの知的財産権を回避できるレベルの独自技術を保有していると判断し、単独受注を目指していた。しかし、その後同社との間で法的紛争が発生。この紛争が長期化すれば、受注が不確実になるだけでなく、将来的に巨額の賠償金が発生する可能性も排除できなかった。
ドコバニ原発1基の事業費が約13兆ウォン(約1兆3700億円)であることを考慮すると、ウェスチングハウスに支払うことになる1基当たりの技術使用料2400億ウォンは、事業費全体の約1.85%に相当する。ウェスチングハウスから9000億ウォン分の機材購入義務が生じることで収益性が低下する側面はあるものの、重要技術を持たない韓国としては「避けられない選択」だったと専門家は指摘する。産業通商資源部の金正官(キム・ジョングァン)長官やKHNPの黄柱鎬(ファン・ジュホ)社長が共通して「契約は正常」と述べるのも、この現実を反映している。
今後の展望:独自技術開発と「50年条項」の克服
今回の契約における「50年条項」については、期間が長すぎるとの指摘もある。しかし、ウェスチングハウスの技術を使用しない完全な独自モデルを開発することができれば、この「50年条項」や技術料の支払いなどを避けることが可能になる。韓国が真の意味での原発輸出国としての地位を確立するには、自律的な技術開発が喫緊の課題となっている。今回のチェコ原発契約は、韓国の原子力産業が抱える構造的な課題を浮き彫りにしたと言えるだろう。
参考文献: