「トランプ関税」へのカナダ報復が米酒類業界を直撃:バーボンメーカー破綻、冷え込む両国関係

カナダの州政府が主導する米国産ウイスキーなどの不買運動が、「トランプ関税」への報復措置として米酒類業界に深刻な打撃を与えています。店頭からの大規模な撤去により、米国産酒類の販売は激減。この影響はバーボンウイスキー関連会社の経営破綻にまで及び、関係者からは悲鳴が上がっています。米国とカナダの間に横たわる通商摩擦は、両国関係を急速に悪化させ、経済的にも社会交流にも深い影を落としています。

カナダのスーパーマーケットで棚から撤去される米国産ウイスキー。トランプ関税への報復として、オンタリオ州が米国産酒類の不買運動を主導した様子を示している。米加間の通商摩擦が消費に与える影響を象徴する一枚。カナダのスーパーマーケットで棚から撤去される米国産ウイスキー。トランプ関税への報復として、オンタリオ州が米国産酒類の不買運動を主導した様子を示している。米加間の通商摩擦が消費に与える影響を象徴する一枚。

「フェンタニル」巡る米加対立と報復の連鎖

トランプ米大統領は、カナダを「51番目の州」と皮肉るなど、米国への合成麻薬「フェンタニル」流入対策の不備を理由に、カナダに対して高関税で揺さぶりをかけてきました。この一方的な措置に対し、カナダ政府は報復関税を課す姿勢を示し、両国間の通商摩擦は激化。特に、カナダ最大の都市トロントを擁する東部オンタリオ州などは、州の専売公社に対し、米国産酒類を扱わないよう指示するに至りました。この指示が、米国産酒類の店頭からの全面撤去という具体的な不買運動へと発展したのです。

米酒類業界への壊滅的打撃:販売激減と企業破綻

カナダ業界団体の調査によると、2025年3月から4月にかけての米国産ウイスキーなどの販売額は、前年同期比で実に66%もの大幅な落ち込みを記録しました。また、今年1月から6月までのカナダへの蒸留酒輸出額も、同62%減と試算されており、状況は悪化の一途をたどっています。米国蒸留酒協議会のスウォンガー最高経営責任者は、「撤去は米国の業界に損害を与えるだけでなく、不必要にカナダ州政府の収入を減らし、消費者を傷つけている」と述べ、不買運動の即時中止を強く求めました。

この影響は企業経営にも及び、2025年7月には、米南部ケンタッキー州に拠点を置くバーボンメーカーの親会社が、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請しました。若年層のアルコール離れという長期的な傾向に加え、カナダでの不買運動による売り上げの激減が、先行き不透明感に拍車をかけ、経営破綻に追い込む決定的な要因となったとみられています。

広がる「脱米国」の動きと冷え込む両国関係

「脱米国」の動きは酒類業界にとどまりません。カナダ当局の発表によれば、2025年7月に米国を自動車で訪れたカナダ市民の数は、前年同月比で37%も減少しました。これは、高まる反米感情が、本来かき入れ時である夏の観光シーズンに深刻な影を落としていることを示しています。

こうした中、カナダ政府は22日、米国からの輸入品に課していた報復関税の多くを撤廃すると発表しました。しかし、通商摩擦によって冷え切った両国関係の修復は容易ではなく、信頼回復には相当な時間と努力が求められます。米国とカナダの間に横たわる試練は、当面の間続くものと予想されます。


参考文献:

  • 時事通信社 (Jiji Press)