肥薩おれんじ鉄道、運転士不足で大幅減便へ – 地域公共交通の未来に警鐘

九州の地域交通を支える肥薩おれんじ鉄道が、深刻な運転士不足に直面し、2024年8月1日から一部列車の運休に踏み切ります。平日運行される全51本のうち、およそ3分の1にあたる18本が減便となり、これは2004年の開業以来、過去最大規模の運休となります。この事態は、地方鉄道が抱える人手不足という共通の課題を浮き彫りにし、地域公共交通の維持がいかに困難であるかを改めて示しています。

運転士不足が深刻化し減便する肥薩おれんじ鉄道の列車運転士不足が深刻化し減便する肥薩おれんじ鉄道の列車

肥薩おれんじ鉄道の挑戦と現状

肥薩おれんじ鉄道は、九州新幹線の開業に伴い、鹿児島本線の八代〜川内間を引き継ぐ形で2004年に誕生した第三セクター鉄道です。開業以来、厳しい経営環境の中で、その魅力的な沿線風景と地域密着型の取り組みで全国的な注目を集めてきました。

例えば、2013年には観光レストラン列車「おれんじ食堂」の運行を開始し、ユニークな車両デザインと質の高い料理が鉄道ファンや観光客から絶賛されました。また、老朽化していた阿久根駅を大胆にリニューアルしたり、映画「かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発」の撮影に協力したりするなど、地域に深く根差しつつ、沿線の魅力を全国に発信し続けることで、多くの反響を呼んできました。これらの努力は、地方鉄道の新たなビジネスモデルとしても高く評価されています。

しかし、現在、同社は喫緊の課題に直面しています。2024年8月1日からの減便は、下り9本、上り9本の合計18本に及び、これは平日ダイヤの約3分の1に相当します。この運転士不足に起因する減便は、肥薩おれんじ鉄道だけでなく、他の鉄道会社でも同様の検討が進められていると言われており、バス業界では既に人手不足を理由とした減便が地方だけでなく首都圏でも相次いでいます。

広報担当者が語る運転士不足の背景と影響

肥薩おれんじ鉄道の広報担当者は、今回の運休決定に至った経緯について次のように説明しています。

「今年の2月1日にも一部運休を実施しており、昨年度は退職者が重なったことで運転士が不足し、十分な運行本数を維持することが困難になりました。現在、弊社の運転士は4月1日時点で27名ですが、本来のダイヤを維持するためには37名が必要です。つまり、現状で10名の運転士が不足している状況です。」

広報担当者によると、定年退職を見越した継続的な採用活動は行ってきたものの、中堅および若手運転士の予期せぬ退職が重なり、必要な人数を確保できていない状況が続いていたといいます。少ない人数で運行を続けてきた結果、運転士一人にかかる負担が非常に大きくなり、健康面への配慮が不可欠となりました。これらの複合的な要因が重なり、やむなく今回の減便に至ったとのことです。「お客様にご負担をおかけするのは心苦しいですが、安全輸送の確保のため、何卒ご理解いただきたい」と、苦渋の決断であったことを強調しました。

今回の減便が期間限定のものかという問いに対しては、「当面の間続く見込みです。運転士の数が確保できれば、すぐにでも本数を増やしたいと考えていますが、ある程度の人数が揃わない限りは難しいのが現状です。今後、ダイヤを元に戻せるかどうかは、人数確保の状況次第となります」と、見通しが立たない状況であることを示しました。

地域公共交通の持続可能性への課題

肥薩おれんじ鉄道の今回の減便は、単一企業の課題に留まらず、日本全国の地方鉄道や公共交通機関が直面する人手不足という構造的な問題の象徴です。魅力的な観光列車や地域連携の取り組みで活路を見出してきた肥薩おれんじ鉄道でさえ、基盤となる人手の確保が立ち行かなくなっている現実は、地域公共交通の持続可能性に大きな警鐘を鳴らしています。安定した運行ダイヤの維持は、地域の住民生活や経済活動に直結するため、国や自治体、そして地域社会全体での協力が求められる喫緊の課題と言えるでしょう。

参考資料