北海道に広がる釧路湿原国立公園(釧路市など)の周辺地域で、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設が急速に進んでいます。この開発ラッシュは、特別天然記念物のタンチョウをはじめとする多くの希少生物の生息地への深刻な悪影響が懸念されており、地元では強い反発の声が上がっています。釧路市はすでに「ノーモア メガソーラー宣言」を発表し、事態の深刻さを訴え、環境保護への危機感が広がりを見せています。
希少生物の宝庫を脅かすメガソーラー計画の現状
釧路湿原の周辺地域は、その平坦な地形、工事の容易さ、そして長い日照時間といった条件から、太陽光発電事業者にとってメガソーラー建設の適地とされています。この地域は市街化調整区域に指定されており、本来であれば開発が抑制されるべき場所ですが、建築基準法の規制対象外であるため、太陽光発電施設の建設が相次ぐ事態となっています。
釧路市が令和5年7月に施行した、建設の際の届け出を求めるガイドラインによると、計画中のものを含め27件ものメガソーラーが確認されています。これらの開発は、希少生物の生育・生息地を直接的に脅かすだけでなく、住みかを追われたヒグマなどの野生動物が人里に出没し、被害をもたらす可能性も指摘されています。
釧路市の「ノーモア メガソーラー宣言」とその背景
こうした状況に対し、釧路市は今年6月に「ノーモア メガソーラー宣言」を行い、これ以上の無秩序なメガソーラー開発を許さないという強い姿勢を示しました。市は現在、9月定例議会に向けて建設を許可制とする条例案の提出を準備しており、市環境保全課の担当者は「建設を制限していきたい」と、具体的な規制強化への意向を表明しています。
専門家が警鐘を鳴らす深刻な環境破壊
環境省釧路湿原野生生物保護センターに近接するメガソーラー建設現場では、今年6月に着工されました。この現場の惨状を記録した約3分間の動画が、希少猛禽類の保護に取り組む「猛禽類医学研究所」(釧路市)の斉藤慶輔代表によって今月13日に公開され、社会に大きな衝撃を与えています。動画には、広範囲にわたる緑地が伐採され土壌がむき出しになり、重機が樹木をなぎ倒す様子が生々しく記録されています。
環境省釧路湿原野生生物保護センターに近接するメガソーラー建設現場。広範囲にわたり樹木が伐採され、土壌がむき出しになっている状況が動画で公開された。(猛禽類医学研究所提供)
斉藤氏は、現場近くでタンチョウのつがいや親子の姿が確認されていることを指摘し、「政府の再生可能エネルギー推奨を背景に自然環境を破壊してもいいという風潮がある」と、日本のエネルギー政策における環境軽視の傾向に強い危機感を表明しています。動画を公開した意図については、「現場で何が起きているのかを国民に知ってもらい、このままでいいか考えてもらうため」と説明しています。また、アルピニストの野口健さんもX(旧ツイッター)でこの状況を「悲劇的な惨状」と批判し、環境破壊の深刻さを訴えています。
釧路湿原周辺のメガソーラー開発を「悲劇的な惨状」と批判したアルピニストの野口健氏。
結論
釧路湿原周辺で進むメガソーラー開発は、単なる土地利用の問題に留まらず、日本の象徴ともいえる希少生物の生息地と豊かな自然環境に深刻な脅威をもたらしています。地元自治体や専門家からの強い反発は、再生可能エネルギーの推進と自然保護との間で、より慎重かつ持続可能なバランスを見出す必要性を強く訴えかけています。事業者側には透明性のある説明責任が求められるとともに、国民全体でこの問題について深く議論し、適切な解決策を探る時期に来ていると言えるでしょう。