夏休み「子どもの居場所」問題深刻化:猛暑と社会の変化が保護者を悩ませる

長かった夏休みも終わりに近づく中、首都圏の保護者からは「いまの子どもたちには安心して過ごせる居場所がない」という悲痛な声が上がっています。令和の時代の子どもたちは、この長期休暇をどのように過ごしたのでしょうか。本記事では、夏休みにおける子どもの居場所が失われつつある現状とその背景にある問題点、そして今後の自治体や国に求められる施策について、東京都市大学人間科学部の泉秀生准教授(子どもの生活習慣研究者)の知見を交えながら深掘りします。

夏休み、猛暑の中で室内で過ごす日本の子供たち夏休み、猛暑の中で室内で過ごす日本の子供たち

学童保育の利用拡大と保護者の経済的負担

小学生の子どもを持つ首都圏の保護者100人への調査によると、約5割が「夏休みは学童保育を利用した」と回答しています。神奈川県内の民間学童を訪れると、夏休み期間中も50人以上の低学年児童が利用する姿が見られました。

ある小学1年生と小学3年生の子どもを持つ神奈川県在住の母親は、「ほぼ毎日午前9時から午後5時まで学童にお世話になっています。『行きたくない』と言った日は在宅ワークに切り替えることもありましたが、何とか行ってもらった日もありました」と語ります。また、小学2年生の娘を持つ東京都在住の母親は、「夏休み中も仕事は休めないため、民間学童を利用していますが、10万円を超える出費は大きな痛手です。留守番をさせるのは心配ですし、万が一一人で外に出たら、この危険な暑さですから……」と、経済的負担と安全への懸念を表明しました。共働き家庭にとって、学童保育は不可欠な選択肢となりつつあります。

猛暑が奪う子どもの屋外遊びと活動の場

近年、子どもたちの居場所が失われている背景には、異常気象による猛暑が大きく影響しています。気象庁のデータによると、10年前と比較して8月の平均気温は約3℃近く上昇しており、現在では40℃近くまで気温が上昇する日も少なくありません。

千葉県在住で小学4年生と中学1年生の息子を持つ母親は、「20年前のように駆け回ってセミとりをしたり、一日中缶蹴りをしたりするのは暑すぎてできません。室内でゲームやYouTubeばかり見ているので、週末は涼しい場所へキャンプに行ったり、自然に触れる機会を作るようにしています」と話します。

さらに、埼玉県在住で小学1年生、4年生、6年生の娘を持つ母親は、「公園で遊ぼうと思っても、滑り台や鉄棒は火傷をするほど熱くなっています。行くとしても夕方の涼しい時間帯に少しだけです。プールも床が熱く、長時間はいられません」と、猛暑による屋外遊び場の利用制限を訴えました。熱中症の危険が高まる中、子どもの屋外活動は大幅に制約されています。

変化する子どもの交流機会と学校施設の利用制限

現代の子どもたちは、友達との約束をする機会も減少しており、親の介入が必須となっている不便さも指摘されています。埼玉県在住の小学5年生と中学1年生の息子を持つ母親は、かつての夏休みを振り返り、「昔は早起きしてラジオ体操へ行き、ご飯を食べたら学校のプールに向かうのが定番でした。そこで友達と遊ぶ約束をして、昼食後には近所の公園へ集合していました」と懐かしみます。しかし、今は学校のプールが廃止され、子ども同士で自発的に遊ぶ約束をするタイミングも失われ、近所の友達と遊ぶにも親が連絡先を知り、調整することが不可欠になっています。

また、夏休み中の学校施設の利用が制限されていることも、居場所不足に拍車をかけています。千葉県在住で未就学児と小学2年生、5年生の娘を持つ父親は、「夏休みには学校の校庭や図書室によく利用させてもらっていました。長期休暇中の学校には特別な雰囲気があり、好きでしたね」と語ります。しかし、「このご時世、防犯上仕方ないのかもしれませんが、娘たちが休暇中の学校に一切入れないのは残念です。40日もある夏休みの中盤には、行く場所がなくなり本当に困っています」と、安全対策の重要性は理解しつつも、子どもたちの活動の場が奪われている現状への懸念を示しました。

安心して過ごせる「居場所」の確保に向けて

猛暑の常態化と社会環境の変化が、夏休みにおける子どもの「居場所」問題を深刻化させている現状が浮き彫りになりました。学童保育の利用が拡大する一方で、経済的負担や定員の問題は依然として残ります。屋外での活動が制限される中、子どもたちが安心して過ごせる多様な室内空間の確保が急務です。

泉秀生准教授が指摘するように、この問題解決には「自治体や国に求められる施策」が不可欠です。学校施設の開放のあり方の再検討、地域コミュニティと連携した新たな活動拠点の創出、そして多様なニーズに応える子育て支援策の拡充が、令和の子どもたちが健やかに夏休みを過ごせる未来へと繋がるでしょう。社会全体でこの問題に向き合い、具体的な解決策を模索していくことが求められています。

参考文献