中国「一帯一路」構想、投資額が過去最大水準に急増—戦略的転換の背景と課題

かつて中国経済の減速と共に陰りが見えていた巨大経済圏構想「一帯一路」が、2025年に入り勢いを急速に取り戻し、新たな局面を迎えています。研究機関の報告書によれば、今年上半期の新規投資および建設契約の総額は1240億ドル(約18兆4000億円)に達し、過去最大規模を記録しました。これは、激化する米国との対立や世界の多極化を見据え、戦略的ツールとしての一帯一路の重要性が中国政府内で再認識されていることの表れと分析されています。

投資額の驚異的な伸びと地域別動向

オーストラリアのグリフィス大学と中国の復旦大学の研究機関が7月に発表した報告書は、一帯一路関連の投資規模が2025年上半期だけで、既に2024年1年間分(1220億ドル)を上回ったと指摘しています。地域別にこの急拡大を詳しく見ると、特筆すべきはアフリカ市場の伸長です。アフリカへの投資は390億ドル(約5兆8000億円)に達し、前年同期の約5倍という急激な伸びを示しました。これは、ナイジェリアでの200億ドル規模のガス開発プロジェクトをはじめとする大規模案件が大きく寄与した形です。また、中央アジアも250億ドル(約3兆7000億円)規模の投資を集め、カザフスタンへの鉱物関連の大型投資が主要な案件となっています。

コンゴ民主共和国の鉱山、中国の一帯一路戦略におけるアフリカ資源開発の重要性を示すコンゴ民主共和国の鉱山、中国の一帯一路戦略におけるアフリカ資源開発の重要性を示す

資源とテクノロジーへの戦略的転換

習近平指導部が内憂外患に備える中、一帯一路の投資分野にも明確な戦略的意図が透けて見えます。着実に伸びているのはエネルギーや金属・鉱物などの資源関連で、新規投資全体の約6割近くを占めました。これは、米国との対抗関係の中で、重要資源の安定的な供給網を強化する狙いがあるとみられます。さらに、テクノロジー関連も成長分野として注目されており、太陽光や水素といったグリーンエネルギー技術に加え、電気自動車(EV)や電池のような製造業への投資も活発化しています。これらは、停滞する国内経済の新たな牽引役として、中国政府が大きな期待を寄せる産業分野です。

交通インフラ投資の縮小と「債務のわな」の教訓

一方で、これまで一帯一路の代名詞とも言えた交通インフラへの投資は、全体の約7%にとどまり、その割合はピークだった2018年の28%と比較して大きく縮小しました。これは、途上国で鉄道、空港、港湾などのインフラが建設されたものの、完成後に赤字運営に陥る事例が相次ぎ、中国への莫大な借金だけが残る「債務のわな」と批判された経験が背景にあります。中国政府も不良債権を抱える事態を避けたい意向から、近年は「大盤振る舞い」を抑制し、採算性や戦略的価値をより厳しく精査する傾向が強まっています。対照的に、拡大しているエネルギーや金属・鉱物の開発は、産出される資源を担保とすることで中国側が投資リスクを回避できるという見方が報告書で示されています。

途上国の債務問題と中国のジレンマ

オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所が5月に発表したリポートによると、2025年には途上国から中国への債務返済額が350億ドル(約5兆2000億円)に達し、特に貧しい75カ国の返済額は過去最高の220億ドル(約3兆3000億円)になると分析されています。この状況から、同研究所は「今後、途上国から見た中国の立場は資金提供者から借金取りへと変わるだろう」と指摘しています。中国としても、強硬に債権を回収すれば途上国との関係を損ない、国際的な対外イメージが悪化するというジレンマを抱えています。

このように、「不良債権のわな」に対する中国の警戒心の高まりが、一帯一路の重点分野に明確な影響を与えていると言えるでしょう。中国は、戦略的価値と投資リスク回避を両立させる新たなフェーズへと、その巨大構想を転換させようとしています。


参考文献

  • Griffith University & Fudan University. “Belt and Road Initiative Investment Report H1 2025.” (2025年7月発表)
  • Lowy Institute. “Developing Countries’ Debt to China Report.” (2025年5月発表)