全長284メートル、ド迫力の巨体を誇る英海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」が8月12日、神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地に寄港しました。最新鋭F35Bステルス戦闘機を多数搭載したその威容は、インド太平洋地域における日英防衛協力の深化と、中国の活発な軍事活動への明確な抑止力を強く示唆しています。この寄港は、インド太平洋地域の安全保障における重要な節目となるでしょう。
「かが」でのF35B発着艦訓練:中国への明確な抑止力
英海軍空母「プリンス・オブ・ウェールズ」が8月12日、駆逐艦「ドーントレス」、ノルウェー艦「ロアール・アムンセン」と共に横須賀の米海軍基地に寄港。この寄港に先立ち、西太平洋上では日英米ノルウェーなど6カ国による共同訓練が実施され、ウェールズ搭載のF35Bが海上自衛隊護衛艦「かが」への初発着艦を実施しました。これは、日本や台湾近海での軍事活動を活発化させる中国を牽制する明確な狙いです。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、「中国は戦力を増強しているが、直ちに台湾や尖閣諸島を侵攻するとは考えにくい。西側は共同訓練でNATOのような連携を示し、中国に『冒険心』を起こさせないよう抑止すべきだ。有事になってからでは遅い」と、国際協力の重要性を強調しました。
海自護衛艦「かが」に着艦するF35B戦闘機が示す日英防衛協力の深化
歴史の転換点:かつての敵から現代の同盟へ
興味深いことに、太平洋戦争開戦当初、日本海軍は同名の英国戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」と交戦していました。1941年12月のマレー沖海戦で、日本海軍の陸上攻撃機が当時世界最強と称された同戦艦を魚雷攻撃で撃沈。これは、航行中の戦艦を航空機のみで沈めた世界初の事例であり、航空戦時代の幕開けを告げた出来事です。
撃沈された戦艦は全長約227メートル、基準排水量約3万6700トン。現在の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」は満載排水量約6万8000トンと、当時の約2倍に迫る巨大さです。最大36機のF35Bを搭載可能な「海上要塞」として2019年、英海軍に就役。終戦から約80年、かつて敵対した国々が今、同じ目的で連携し日本に寄港する様は数奇な運命です。これは、現代の世界情勢がいかに緊迫しているかを示す証左でもあります。
最新鋭F35B戦闘機を多数搭載し横須賀に寄港した英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」の壮大な姿
今回の英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」の横須賀寄港と共同訓練は、インド太平洋地域の安全保障における多国間協力の重要性を改めて示しました。歴史的背景を乗り越え、日英両国が同盟関係を深化させる中で、中国の動向を牽制し、地域の安定に貢献する役割は計り知れません。緊迫した現代の世界情勢において、このような強固な連携は平和と安定維持に不可欠です。
参考資料
撮影・福田正紀
「週刊新潮」2025年8月28日号 掲載
新潮社