声優業界に忍び寄る「失われた礼儀」:ベテランが語るアフレコ現場の変遷

日本のエンターテイメント業界において、声優という職業は常に注目を集めています。しかし、その華やかな表舞台の裏側にあるアフレコ現場では、時代とともに変化する業界文化、特に「基本的な礼儀」のあり方が問われています。長年にわたり業界を牽引してきたレジェンド音響監督・明田川進氏と、多くの作品で活躍するベテラン声優・岩田光央氏の対談から、声優業界における礼儀作法や上下関係の重要性、そして失われつつある現場のマナーについて深く掘り下げます。

岩田光央氏は、自身が「僕らの上の世代の先輩方は上下関係に厳しいところがあって、良し悪しはともかく、例えばスタジオに入ってきたら大きな声で挨拶をする。先輩方にはお茶をお出しして、ドアの開け閉めも僕らがしてっていうようなことを叩きこまれた、最後の世代なんです」と語り、かつてのアフレコ現場が持つ独特の規律と、そこから育まれたプロ意識について言及します。これは、現代の声優業界では薄れつつある価値観なのかもしれません。

アフレコ現場で失われつつある「基本的な礼儀」の重要性

音響監督歴58年の明田川進氏が著した新書『音響監督の仕事』からの抜粋対談では、特に声優業界の若手層における基本的なマナーの欠如が焦点となりました。かつて岩田光央氏が参加した人気アニメ『ミルモでポン!』のアフレコ現場でのエピソードが、この問題の根深さを示しています。

『ミルモでポン!』のアフレコで起きた出来事:若手声優への苦言

岩田氏は、『ミルモでポン!』の最終話アフレコ時、多くの若手声優が参加する現場で、ものづくりに対する基本的な姿勢、特に挨拶や返事といったマナーが欠如していると感じていました。スタッフが熱心に挨拶をしている中、一部の若手たちがそれをただ笑顔で聞いているだけの様子に、岩田氏は「なぜきちんと返事をしないのか」と強い義憤を覚えたといいます。当時まだ血気盛んだった岩田氏は、「ちょっと待ってください」と声を上げ、その場で若手たちに自身の懸念を直接伝えたのでした。

この岩田氏の行動について、明田川監督は「岩田さんがいるだけでスタジオの雰囲気が締まる」とコラムで触れており、その場を借りて「僕が言うよりも効果があった」と感謝の意を表明しました。岩田氏自身は、自身の発言が現場の和を乱したのではないかという不安を抱いていたものの、実際にはその後アフレコ現場の雰囲気は一変し、若手たちにもその真意が伝わったことが確認されたのです。

アフレコ現場の雰囲気と声優の仕事に対する姿勢アフレコ現場の雰囲気と声優の仕事に対する姿勢

時代と共に変わる業界文化と、それでも守るべきプロフェッショナリズム

岩田氏は、自身が若手時代に先輩方から厳しく指摘され、礼儀作法や上下関係を叩きこまれた「最後の世代」であると語ります。スタジオへの入室時の大きな挨拶、先輩へのお茶出し、ドアの開閉といった細かな気配りが、彼らの世代にとっては当たり前の「基本的な礼儀」でした。

確かに時代は変わり、以前のような厳格な上下関係や形式的なマナーが必ずしも現代に合致しないという自覚は岩田氏にもあります。しかし、彼は「それでも基本として守らなくてはならないことは絶対ある」と強調し、プロとしてものづくりに携わる上での最低限の姿勢の重要性を訴えます。これに対し、明田川監督も深く頷き、「基本的な礼儀ですよね」と結論づけました。声優業界が多様化し、新たな才能が次々と生まれる中で、この「基本的な礼儀」がどのように継承され、進化していくのかが、これからの業界の課題となるでしょう。

まとめ

声優業界の第一線で活躍する岩田光央氏と、音響監督の巨匠である明田川進氏の対談は、アフレコ現場における「基本的な礼儀」の喪失という現代的な問題に光を当てました。かつての厳格な上下関係とマナーは時代とともに変化しつつありますが、プロフェッショナルとして作品に向き合う姿勢、そして人としての基本的な礼儀作法は、いつの時代も変わらない重要な価値であることを両者は示唆しています。業界の健全な発展のためには、新旧の文化を尊重し、本質的な「礼儀」を次世代へと繋いでいく努力が不可欠であると言えるでしょう。

参考資料

  • Yahoo!ニュース: 「僕らの上の世代の先輩方は上下関係に厳しいところがあって…」ベテラン声優・岩田光央が『ミルモでポン!』アフレコで若手に“生意気なこと”を言った理由 (参照日: 2024年X月X日)
    • (Original Source Link: https://news.yahoo.co.jp/articles/c48f1506daf52226ed237c90445066933bd39c6a)
  • 明田川進著『音響監督の仕事』(星海社)