米国で、子供向け番組においてクリストファー・コロンブスが「奴隷は殺されるよりマシ」と発言する場面が大きな物議を醸しています。この内容は、ドナルド・トランプ前政権が公共放送の予算削減を進める中で台頭した保守系メディア「PragerU」が配信するもので、歴史の歪曲を指摘する声が高まっています。アメリカ社会における情報源の公正性と子供向け教育のあり方を巡る懸念が深まっています。
公共放送予算削減と「PragerU」の台頭
ドナルド・トランプ米政権は、公共放送の予算を10億ドル(約1500億円)以上削減すると発表しました。この決定により、米国の教育、文化、地域放送の基盤が揺らぎ、情報提供の公平性について懸念が生じています。このような状況下で、トランプ政権が後押しするとされる保守系メディア「PragerU」が、歴史を歪曲した子供向け番組を配信しているとして批判の的となっています。PragerUは、「デジタルメディア、テクノロジー、エデュテインメント(教育エンタメ)をクリエイティブに活用し、アメリカの価値観を広める」ことを目的とする非営利団体です。政治、歴史、経済、社会問題に関する動画を公開しており、大人向けだけでなく、子供向けの教材も展開し、「あらゆる年齢層の人々がより良く考え、より良く生きることを支援する」と主張しています。
トランプ元米大統領。政権時に公共放送の予算削減を提唱し、保守系メディアPragerUを後押ししたと報じられている。
専門家が指摘する「PragerU」コンテンツの偏向性
しかし、PragerUが提供するコンテンツに対しては、専門家から厳しい批判の声が上がっています。「U(ユニバーシティ)と名乗りながらも、実際には大学でも教育機関でもない」という指摘や、「偏った歴史観や特定の政治的主張を押し付けるプロパガンダである」との意見が多く聞かれます。実際に、気候変動の否定、LGBTQコミュニティや移民に対する差別的な主張などが繰り返し問題視され、炎上を招いています。これらの批判は、PragerUの「教育エンタメ」が、客観的な情報提供ではなく、特定のイデオロギーを広めるための手段となっている可能性を示唆しています。
『レオ&レイラの歴史冒険』が描くコロンブスの二面性
今回、特に物議を醸しているのは、PragerUが配信する子供向けシリーズ『Leo & Layla’s History Adventures』です。このシリーズでは、コロンブス・デーを祝うべきか、それとも先住民の日と呼ぶべきかで悩む兄妹が、タイムスリップしてコロンブス本人と話をするという物語が展開されます。
弟のレオは、姉のレイラに「ネット上でもコロンブスの評価が分かれている」と相談します。コロンブスへの批判としては、「アメリカ大陸に奴隷制、病気、暴力を広めた」とし、「もし彼が来なければ、人々はもっと幸せに暮らせたかもしれない」という見方が示されます。一方で、「コロンブスは探検を愛した勇敢な人物で、後の世代にインスピレーションを与えた」「キリスト教や西洋文明を広め、新しい考え方や暮らし方の恩恵を受けた人々もいた」という肯定的な評価も紹介され、世間の評価が二分している状況が描かれます。そこで、二人はタイムスリップしてコロンブス本人と対話し、レオがコロンブスに先住民の人々をどのように扱ったのかを直接問いかける場面で記事は終わっています。
この番組は、歴史上の人物とその行動を巡る複雑な議論を子供向けに単純化し、特定の視点から提示していることについて、懸念が表明されています。歴史教育において、多角的かつ正確な情報提供の重要性が改めて問われる事態となっています。
まとめ
アメリカにおける公共放送の予算削減と、それに伴うPragerUのような保守系メディアの影響力拡大は、情報環境と子供の歴史教育に新たな課題を提起しています。コロンブスを巡る子供向け番組の描写は、歴史的事実の解釈、そして教育コンテンツの公平性と客観性に関する議論をさらに深めるものと見られます。子供たちが多様な視点から歴史を学び、批判的思考力を養う機会が損なわれることへの懸念は、今後も重要な社会問題として注目されるでしょう。