米国EV市場の冷え込みと補助金廃止:日本への示唆と今後の展望

米国では電気自動車(EV)市場が急速な冷え込みに直面しており、消費者のEV購入意欲が顕著に低下しています。特に、2025年9月末に予定されている最大7,500ドル(約115万円)の連邦税額控除の廃止は、EV市場の「冬の時代」を本格化させる可能性を指摘されています。この動きは、世界の自動車産業、ひいては日本の自動車メーカーにも大きな影響を与えると考えられます。本稿では、米国市場の現状と補助金廃止の影響、そして今後の展望について解説します。

米国でのEV補助金廃止が近づく中、不人気な電気自動車市場の将来を示すイメージ。米国でのEV補助金廃止が近づく中、不人気な電気自動車市場の将来を示すイメージ。

米国EV市場の急速な冷え込みと補助金廃止の影響

米国でのEV販売は現在、停滞傾向にあります。連邦政府によるEV購入補助金が継続しているにもかかわらず、第2次トランプ政権発足後のEV新車販売台数は約10万台で横ばいとなり、前年比の伸びも低迷が続いています。自動車調査企業コックス・オートモーティブによると、9月末の補助金廃止を控えた駆け込み需要により、2024年7月の米新車EV販売台数は前月比26.4%増、前年同月比19.7%増の13万82台を記録しました。また、4,000ドルの補助金対象である中古EVも大幅な伸びを見せましたが、これは一時的なものであり、補助金廃止後の2024年10~12月期にはその反動による大きな落ち込みが予想されています。

一方で、ハイブリッド車(HV)の新車販売台数は前年比で著しい伸びを見せており、多くの消費者がHVを好む明確な傾向が読み取れます。これは、EVの普及における課題が背景にあると考えられます。

消費者のEV購入意欲が過去最低水準に

米国自動車協会(AAA)が2024年3月に1,128人の米成人を対象に実施した調査結果は、EV市場の厳しい現実を浮き彫りにしています。「次の車としてEVを購入したいか」という問いに対し、「EVを購入したい」「EVをとても購入したい」と回答した人は、全体のわずか16%に過ぎませんでした。この数字は、2022年の25%から9ポイント低下し、2019年以来で最も低い水準となっています。

それに対し、「EVを購入したくない」「EVをとても購入したくない」と回答した人は合計で63%に達し、2022年の51%から12ポイントも上昇しています。このようなEV需要の低迷の背景には、車両価格の高さ、充電インフラの不足、航続距離への不安、バッテリーの劣化懸念など、複数の要因が複合的に絡み合っていると指摘されています。

日本市場への示唆と今後の展望

米国のEV市場の動向は、世界の自動車産業全体に影響を与えます。特に日本はハイブリッド技術が強みであり、EVシフトの速度や方向性において独自の道を歩む可能性があります。米国の補助金廃止は、価格競争力の重要性を再認識させるとともに、消費者ニーズに合わせた多様なパワートレインの提供が求められることを示唆しています。日本の自動車メーカーは、EVの課題を克服しつつ、HVやプラグインハイブリッド車(PHEV)といった選択肢を強化することで、持続可能な成長を目指す戦略をより重視するかもしれません。今後、米国の政策変更が国際的なEV政策や消費者行動にどのような波及効果をもたらすか、その動向が注目されます。

参考文献

  • 米自動車調査企業コックス・オートモーティブ (Cox Automotive)
  • 米国自動車協会 (AAA)
  • Argonne National Laboratory