米国防総省が、今後の米国の国防政策の羅針盤となる次期国家防衛戦略（National Defense Strategy、以下NDS）の最終草案をまとめたことが、日経アジアの報道により明らかになりました。NDSは、国防予算、兵力構造、海外駐留態勢、軍の近代化計画など、米軍の全体的な方向性を規定する最高位の戦略指針書です。この草案が米政府内の調整を経て今秋に公開されれば、東アジア、特に韓米同盟や朝鮮半島の安全保障に少なからぬ影響を及ぼすことが予想されます。
今回のNDS草案の大きな特徴は、J.D. バンス米副大統領の外交安保路線と、エルブリッジ・コルビー前国防次官（政策担当）が提唱する「拒否戦略」がその思想的両軸となっている点です。日経アジアが文書を検討した当局者の話を引用して伝えたところによると、約80枚に及ぶ草案は、バンス副大統領が今年2月のミュンヘン安全保障会議で行った演説と、コルビー氏の著書『拒否戦略（Strategy of Denial）』が土台となっています。
米国の新国家防衛戦略の方向性を決定づけるJ.D. バンス副大統領
J.D. バンス副大統領が示す「欧州安保自立」と「トランプ体制」への適応
バンス副大統領が2月にミュンヘン安全保障会議で行った演説は、欧州の指導者層に「驚愕」をもって受け止められました。彼は「村に新しい保安官が来た」と述べ、欧州各国に対して「トランプ体制」への適応を強く求めました。さらに、「欧州がこれ以上米国の安全保障従属国であってはならない」と強調し、欧州独自の安全保障責任の拡大を促したのです。これは、第二次世界大戦後の米国と欧州の間に築かれてきた大西洋同盟に亀裂が生じかねない、重大な出来事として評価されています。バンス副大統領は、欧州の懸念すべき脅威はロシアや中国などの外部勢力ではなく、移民政策など「最も根本的な価値から後退する現象」という内部的な脅威にあると批判的な見解も示しました。
コルビー前次官の「拒否戦略」が描く対中競争の焦点
一方、コルビー前国防次官が2021年に発表した著書『拒否戦略』は、21世紀に米国が直面する最も重大な挑戦を「中国の覇権追求」と断定しています。この戦略は、米国と同盟国がその力を集中させ、中国の軍事的行動、特に台湾への侵攻を物理的に不可能にすることを目指します。そのため、米国は軍事力を最も優先すべき脅威である中国に集中させ、欧州やアジアにおいては同盟国が自ら防衛の責任を負うよう誘導することが主な内容となっています。
新NDSの4つの柱と「同盟国のただ乗り」問題
今回の国家防衛戦略の核となる4つの柱は、以下の点に要約されます。
- 国土防御の強化
- 中国に対する抑止力の維持・強化
- 同盟国・パートナーの負担分担拡大
- 防衛産業基盤の再活性化
これらの内容は、先月、米国防長官首席顧問を務めたダン・コールドウェル氏と、米シンクタンク「国防優先順位」のジェニファー・カバナー研究員が共同で発表した報告書の内容と軌を一にするものです。当時、コールドウェル氏らは「米国の同盟国とパートナーの安全保障上のただ乗りは依然として問題だ」と指摘。東アジアにおける米軍の配置は、中国牽制および米国の国益保護に焦点を当てて再調整されるべきだと主張しました。具体的には、約2万8500人規模の在韓米軍について、第2歩兵師団の大半と戦闘機飛行大隊2個部隊を縮小し、約1万人にまで減らすべきだと提言しています。
在韓米軍の再編と今後の同盟関係への影響
このため、現地外交関係者の間では、新しい国家防衛戦略にも在韓米軍の役割や規模の再調整に関する議論が何らかの形で反映される可能性が高いとの見方が出ています。一部からは、在韓米軍の役割と活動半径の拡大を意味する「戦略的柔軟性の強化」や、防衛費分担金の拡大など、韓国に対する同盟現代化圧力がさらに強まるという声も上がっています。
結論
次期国家防衛戦略草案は、J.D. バンス副大統領の「同盟国の自立」とエルブリッジ・コルビー前国防次官の「対中集中戦略」という二つの思想を基盤としています。これは、米国の外交・安全保障政策が、中国との競争を最優先しつつ、同盟国に対してより大きな防衛責任を求める方向へとシフトしていることを示唆しています。特に東アジア地域においては、在韓米軍の再編や防衛費分担を巡る圧力が強まる可能性があり、日本の安全保障環境にも間接的に大きな影響を及ぼすことになります。今後の米政府内の調整プロセスと最終的なNDSの公開が注目されます。
Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/f0059e4e4d7e6ec0015cf20e3f71630edaa8eac5
