大阪府内において、増加する外国人観光客の宿泊需要に対応するために導入された「特区民泊」事業が、騒音やゴミ出しなどの住民トラブルを背景に、少なくとも5つの市や町が事業からの離脱を希望していることが関西テレビの取材で明らかになりました。この動きは、住宅地としての住環境と観光振興のバランスに新たな課題を提起しています。
大阪に集中する「特区民泊」の現状と課題
「特区民泊」事業は、国が外国人観光客の宿泊施設不足解消を目的に始めた制度です。一般的な民泊に比べて営業日数に制限がないなど、参入障壁が低いのが特徴とされています。2016年の導入以降、全国の特区民泊のうち95%が大阪府に集中し、その急速な普及は観光客誘致に貢献してきました。
しかし、近年では、宿泊客による夜間の騒音問題や、ゴミ出しルールをめぐる地域住民とのトラブルが相次いで報告されており、生活環境への影響が懸念されています。こうした状況を受け、今月12日には寝屋川市が「まちづくりに必要ない」として、大阪府に事業からの離脱を申し立てました。これを受け、大阪府は府内の各市町村に対し、離脱の意向があるかどうかの調査を行っています。
箕面市が離脱表明した理由:「住宅都市」としての価値保護
大阪府内で新たに離脱の意向を表明した自治体の一つが箕面市です。市内には現在1カ所の特区民泊施設がありますが、これまでのところ具体的なトラブルは確認されていません。にもかかわらず、なぜ箕面市は離脱を望むのでしょうか。
箕面市の原田亮市長が特区民泊からの離脱意向を表明する様子
関西テレビの取材に応じた箕面市の原田亮市長は、「もともと特区民泊からの離脱はずっと検討していた」と述べ、その理由を次のように説明しました。箕面市は「住宅都市」として発展を遂げており、人口が着実に増加している現状において、「観光振興よりも住宅都市としてのブランド価値を守っていくことが必要だ」との見解を示しています。市長は「市民が暮らすエリアと観光客が泊まるエリアは分けるべき」とし、「民泊を増やそうという考えはない。住居エリアとホテルができるエリアをしっかり分けて、民泊ではなくホテルを誘致していこうと考えている」と語りました。
他の自治体も離脱を希望:生活環境と法整備への懸念
関西テレビが大阪府内の全ての市町村に離脱意向の有無を取材した結果、箕面市のほかにも、現在特区民泊施設がない四條畷市、藤井寺市、島本町も離脱を希望していることが判明しました。
島本町の担当者は、「近隣住民の生活環境が悪化する懸念がある」と述べており、四條畷市の担当者からは、「騒音問題などが起こった際の指導方法について、十分な法整備がなされていない」という課題が挙げられています。
特区民泊による近隣住民とのトラブル解決の難しさを示すイラスト
また、府内で最も多くの特区民泊が集中する大阪市でも、先月、事業の課題を洗い出すためのプロジェクトチームが設置されました。横山市長は、「課題が解決されないなら、新規の受付停止も考えないといけない」と述べ、状況によってはさらなる規制強化もあり得ることを示唆しています。
結論
大阪府内における「特区民泊」事業は、外国人観光客の受け入れに貢献する一方で、地域住民の生活環境との間で軋轢を生み出し、多くの自治体がそのあり方を見直す動きを見せています。住宅都市としての価値の維持、騒音やゴミ問題への対応、そして法整備の不十分さといった課題は、観光振興と地域共生のバランスをいかに取るかという、日本の観光政策における重要な問いを投げかけています。今後の各自治体と大阪府の対応が注目されます。