「日本人ファースト」の裏にある本質:ドイツ極右躍進から見据えるポピュリズムの波と懸念

近年の日本の政治動向において、参院選での参政党の躍進とその主要な訴えである「日本人ファースト」が注目を集めています。これは外国人問題を前面に押し出し、自国優先の考え方を強く打ち出すものです。しかし、この動きは果たして日本固有の現象なのでしょうか。本記事では、ドイツにおける極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進と、それが示唆するポピュリズムの国際的な潮流を比較検証し、「日本人ファースト」の背後にある本質的な意味と、その先に潜む懸念について深掘りします。国際的な視点から、この政治的スローガンが持つ多面的な影響を専門家の声と共に紐解いていきます。

ドイツの極右躍進と若者のポピュリズム傾倒

ドイツでは今年2月の選挙で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党となり、その勢いを世界に示しました。来日中の国際政治学を学ぶドイツ人学生、ステン・スタウブ氏はこの現状について「ドイツの選挙でも18歳から25歳の若者の多くが極左政党や極右政党に投票した。これほど高い数値はかつてなかったことで、ポピュリズムが若者の間にも浸透していることを示している」と分析します。

スタウブ氏は、日本の「日本人ファースト」も同様に「外国人関係ない」と主張しつつ、市民に問題を提示し、怒りや不満といった感情を政治に持ち込む手法であると指摘しています。自身の意見形成前の若者が、適切な情報フィルタリング機能のないSNSの情報などを通じて、極端な政治思想を刷り込まれている可能性に警鐘を鳴らしました。これは、単なる外国人問題に留まらず、社会の不満を巧みに利用するポピュリズムの典型的なメカニズムを示唆しています。

「堀潤 Live Junction」番組で“日本人ファースト”について議論する様子。「堀潤 Live Junction」番組で“日本人ファースト”について議論する様子。

「日本人ファースト」の真意と潜在的リスク

参政党の神谷宗幣代表は、TOKYO MXの番組でキャスターの堀潤氏に対し、差別的な言動を懸念する声に対して「もし外国人を差別したり、追い出したいと思っている人たちが参政党に期待しているならば、それはちょっと違うと思う。我々はそういう党ではありません。ただし、ルールは厳格にし、皆さんが安心して暮らせる日本にしたい。過度な行動や言論は控えていただきたいとお願いしたい」とメッセージを送りました。

しかし、ドイツ出身の公共放送プロデューサー、マライ・メントライン氏は、この主張に懸念を示しています。「外国人は関係ない、ただ“日本人ファーストなだけ”というのはよく聞くが、その先にあるのが、(自分たちと)合わない人、いないほうがいい人物を探す流れになりやすい。それがこのワードの問題点だと思う」と述べ、意図せずとも排他的な動きに繋がりかねない危険性を指摘しました。

実際にドイツの極右政党AfDは、先の選挙中「UNSER LAND ZUERST!(わが国ファースト)」を掲げ、最近では「リ・ミグレーション(Re-migration)」という言葉を多用しています。「リ・ミグレーション」は「イミグレーション(Immigration/移住・移民)」に「リ(Re)」がつき、「再移住」を意味し、実質的に「ドイツから出ていけ」というメッセージを内包しています。このような排他的なメッセージが若者層から支持を得ている現状は、「ファースト」という言葉の裏に隠された真意と、それが引き起こす社会的な影響について深く考えさせるものです。

専門家が警鐘を鳴らす「排除の思想」

堀潤氏は、ステン氏の話を引き合いに出し「外国人問題があるから票が入るのではない。不満があるから、その不満を焚きつけるときに外国人問題を利用している」と述べ、ポピュリズムが社会の根底にある不満をいかに利用しているかを指摘しました。

この状況に対し、タレントのふかわりょう氏は「“日本人ファースト”という言葉自体に排他的・排外主義を直結しない人もいるとは思うが、短期間でそれが一人歩きしたというか、濃度が高まっている気がする」と懸念を表明。無闇な追従に疑念を呈しました。弁護士の島田さくら氏も「自分が選んだものではない、例えば、外国人であるとか日本人であるとか、男性である・女性であるとか、選べないものに優劣をつけ、(一方を)排除していく考え方は絶対的によくない。自分が排除される側に回る可能性を上げていくものでもあり、その考え方に沿って日本が動いていくのは、本当に怖い」と、本質的な危険性を訴えました。

経済アナリストの池田健三郎氏も「何かを排除する、何かをファーストにすることは残りのものがセカンド以下、排他的な色彩を帯びる」と指摘しつつ、「そうではなく、この国をこうしようというスローガンがなぜバズらないのか」と、ポジティブな方向での議論が進まない現状に憂慮を示しました。

結論

ドイツの極右政党の台頭と日本の「日本人ファースト」を巡る議論は、世界的に広がるポピュリズムの波と、それが社会にもたらす潜在的な危険性を示しています。「ファースト」というスローガンが、たとえ当初は排他的な意図を持たなかったとしても、その言葉が一人歩きし、やがて特定の層の排除や分断を招くリスクは無視できません。

堀潤氏が紹介したように、ドイツでは「極右のスローガンに中道右派の人たちがなびいた。その言葉をマイルドにして、もう一度きちんと提案すれば、極右に(票を)投じた人たちも戻ってくるかもしれない」という“ゆり戻し”の動きも示唆されています。このことから、今回の日本の参院選で提示された「日本人ファースト」という概念を、他の政党がどのように受け止め、どのような形で政策に取り込んでいくのか、その今後の展開を注意深く見守る必要があります。排他的な思想に陥らず、多様性を尊重しつつ、国民全体の利益を追求する建設的な議論が、これからの日本の政治に求められています。

参考文献