近年、SNSを中心に強い発信力を持つユーチューバーが、地方議会において存在感を増しています。国政選挙に比べて少ない得票数で議席獲得が可能な地方選は、議員のなり手不足も相まって、彼らにとって新たな活躍の場となりつつあります。しかし、その高い発信力がポピュリズムにつながる懸念も指摘されており、政策重視の選択が求められています。
迷惑系ユーチューバーから奈良市議へ:へずまりゅう氏の衝撃的な当選
2024年7月20日に投開票が行われた奈良市議選では、無所属新人のユーチューバー、へずまりゅう氏(34)が初当選を果たし、多くの衝撃を与えました。翌21日、奈良市役所で当選証書を受け取ったへずま氏は、「これほど多くの支持を受けた以上、期待を裏切ることなく頑張りたい」と抱負を語りました。彼の当選が注目されたのは、スーパーで代金を支払う前の魚の切り身を食べる動画を公開するなど、過去に有罪判決も受けた「迷惑系ユーチューバー」としての経歴に理由があります。選挙戦中は「『奈良から出ていけ』と罵声を浴び、一度も演説ができなかった」と述べ、主にSNSと選挙カーでの巡回を通じて選挙運動を展開したといいます。しかし、定数39に対し55人が立候補した激戦の中、彼は8320票を獲得し、堂々3位で当選を飾りました。
奈良市議選で当選証書を受け取るへずまりゅう氏
若者からの共感と既存政治への不信
へずまりゅう氏の当選について、有権者の間では様々な声が聞かれました。ある男性会社員(48)は「迷惑行為で知られた人がいきなり通るなんて」と困惑を隠せない様子でした。一方で、大学2年の女子学生(19)は、へずま氏の「奈良のシカを外国人から守る」という活動に共感し、「年齢が若く期待できる」と一票を投じたと話しています。彼の特定の公約が若年層を中心に支持を集めたことが、今回の結果に影響したと考えられます。
地方議員不足とSNS時代の集票力
これまでも、政治とは無縁に見えるタレントやプロレスラーが知名度を活かして地方議員に当選するケースは存在しました。地方議員は国政議員と比較して当選に必要な得票数が少なく、また、全国的に議員のなり手不足が深刻化していることも、ユーチューバーの地方進出を後押しする背景にあります。若年層を中心に幅広い知名度を持つユーチューバーは、特定の政党に所属していなくても、SNSなどを通じて効果的に有権者にアプローチし、集票の素地があると言えます。教育系の動画で「いずみん先生」として活動し、今年2月の東京都西東京市議補選で立憲民主党公認で初当選した千間泉実氏(32)も、「へずま氏は影響力のある第一人者であり、今後政治家を志すユーチューバーは増加するだろう」との見方を示しています。
ポピュリズムへの懸念と政策重視の選択
ユーチューバー議員の増加は、政治への新たな参加の形を示す一方で、その高い発信力がポピュリズムにつながる可能性も指摘されています。専門家は、単なる知名度やパフォーマンスに流されるのではなく、有権者が候補者の政策や実績を重視して選択することの重要性を呼びかけています。情報が氾濫する現代において、的確な判断を下すためのリテラシーが、これまで以上に求められています。
地方議会に広がるユーチューバー議員の現象は、SNSが社会に深く浸透した現代における政治の新たな一面を示しています。彼らが持つ独自の集票力は、政治への関心が薄い層を巻き込む可能性を秘める一方で、その影響力に対する慎重な評価と、政策に根ざした議論が不可欠です。
出典: Yahoo!ニュース (記事掲載元)