この夏、日本の政界に「真夏の怪談」ならぬ「真夏の奇妙な話」が持ち上がっている。各種報道機関が8月下旬に行った世論調査で、石破内閣の支持率が軒並み上昇しているのだ。特に読売新聞社の調査では39%を記録し、7月の同社調査から17ポイントもの大幅なアップを見せた。昨年の衆院選、今年6月の東京都議選、そして7月の参院選と、自民党が歴史的な惨敗を喫してきた状況を鑑みると、この石破内閣支持率上昇の背景には何があるのか、多くの国民が首を傾げている。
世論調査で支持率上昇が報じられた石破茂首相
低迷期を経ての支持率急上昇、その謎とは
自民党が度重なる選挙で国民からの厳しい審判を受けたにもかかわらず、なぜ石破内閣の支持率が伸びているのだろうか。参院選後も物価高対策や、選挙の争点にもなった消費税減税、2万円の給付金といった政策は棚上げされたままだ。これまでの敗北を受け、自民党の茂木敏充前幹事長が「スリーアウト、チェンジ」と石破茂首相に退陣を求める動きが表面化していただけに、この支持率の動きは政界関係者をも驚かせている。政治評論家の有馬晴海氏は、「選挙に負けた総理大臣に“辞めるな”という声が上がったのは、私も初めて聞きました」と語り、この現象の特異性を指摘する。
政治評論家が読み解く「石破辞めるな」の真意
有馬氏によると、今回の石破内閣の支持率上昇には、国民の複雑な心理が反映されているという。「簡単にいえば、石破さんが辞めた後に高市早苗さんなどが総理になったら、社会が右傾化することを嫌がる人たちが声を上げているのでしょう。石破さんが辞めたら、自民党は終わってしまうぞ、と」。特定の政治家の台頭への懸念が、石破氏続投への支持につながっている側面があるという見方だ。また、世論調査では「石破辞任すべきだ」という意見が12ポイント下がり42%となったことからも、「国民全体として、石破さんが辞めないほうがいいんじゃないか、という流れができているのだと思います」と有馬氏は分析する。これは単なる個人の支持を超え、現在の政治状況に対する国民の選択肢のなさ、あるいは「よりマシな選択」としての石破氏という側面を示唆している。
裏金問題と「人材不在」が露呈する自民党の現実
自民党の支持率低迷の大きな要因となったのは、パーティー券に絡む裏金問題である。この「恩恵」を受けていたとされる旧安倍派の議員たちが、石破おろしの中心になっていることも、国民の目に不自然に映っていると有馬氏は続ける。「“スリーアウト、チェンジ”なんて面白がって言ってますが、もとはといえばあなたたちが悪かったんだろう、と。大きなブーメランとして返ってきているわけです」。国民は、党内で批判している人々が責任を石破氏に押し付けて逃れようとしていると見ており、こうした自民党の古い体質そのものが問題だと感じている。
さらに、有馬氏は現在の自民党が直面している「人材不足」の問題も指摘する。「石破さんが辞めたら、次は誰がやれば変われるのかといっても、もう人材もいないじゃないですか」。前回の総裁選では9人もの立候補があったにもかかわらず、今、次期総理候補に手を挙げようとする者が少ないのは、「火中の栗を拾いたくないとか、自分の都合で考えているだけ」であり、「この国をどうしたい」という意欲が見えないと国民には透けて見えているという。
「変人」石破氏の本意と国民の期待
有馬氏は、石破氏のこれまでの政治姿勢も今回の支持率上昇の一因だと見ている。「石破さんもある意味、こだわりのある変人みたいなところがあるじゃないですか」。安倍内閣の時代、多くの議員が安倍氏になびく中で、「このやり方では自民党が終わってしまう」と立ち向かったのが石破氏だった。総理に就任した今は、数の後ろ盾がないため、森山裕幹事長など力を持つ古株たちの意見を汲んでいるが、国民はその「裏事情」を理解していると有馬氏は分析する。「今の政策は石破さんの本意ではない、と感じていることも“石破推し”の原動力になっているのかもしれません」。国民は、石破氏の信念と現実の政策との乖離を認識しつつも、彼自身の誠実さや「変人」たる政治姿勢に一定の評価を与えていると言えるだろう。
結論として、石破内閣の支持率上昇は、単に政策やリーダーシップに対する積極的な支持というよりも、現在の自民党が抱える問題点(裏金問題、古い体質、人材不足)への国民の失望と、次期リーダーへの期待のなさ、そして石破氏個人の信念や過去の言動への評価が複雑に絡み合った結果である。この「真夏の奇妙な話」は、日本の政治が転換期にあることを示す一つの重要な指標と言えるだろう。
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