古今東西を問わず、古い世代が若い世代を「情けない」と感じる現象は繰り返されてきました。古代ギリシャの叙事詩『イーリアス』には、「昔の将軍は一人で軽々と石を投げたが、今の若者は二人でも持てない」という表現が見られ、中国の思想書『韓非子』の「五蠹(ごと)」にも、「まだ年若い者は、両親が怒っても改めず、師が教えても変わろうとしない」という記述があります。これは、世代間の意識ギャップがいかに普遍的なものであるかを示唆しています。現代においても、この世代間対立は社会の様々な側面、特に政治意識において顕著に表れており、韓国社会の現状がその一例として注目されています。
現代韓国における「86世代」と若者の政治的対立
昨年冬に出会った20代の大学生Aさんのケースは、現代韓国における世代間政治対立を象徴しています。社会的に成功した「86世代」(1960年代生まれで1980年代に大学生活を送った人々)の父親を持つAさんは、大学生になって政治に関心を持つようになりました。しかし、革新傾向の親と意見が対立することが多く、父親からは「お前はまだよく知らないからだ」と叱責されたといいます。この父親もまた、1980年代の大学時代に保守派の親から同じ言葉を投げかけられた経験があるかもしれません。Aさんと両親の対立は深まり、結果として二人の政治的傾向はさらに極端化。Aさんは尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾に反対する集会に参加し、父親は賛成集会に足を運ぶという状況に至りました。
このような現象は、個人の家庭内にとどまらず、世代全体の傾向としても観測されています。ソウル大学国家未来戦略院の調査によると、韓国の20代、30代の理念傾向指数(5点以上が保守的)は5点を越えており、4点台にとどまる86世代とは対照的な「保守化」が進んでいます。これは、若年層が親世代とは真逆の政治的方向へと傾いていることを示しています。
韓国の世代間政治対立を象徴するイラスト。若者と旧世代の意識ギャップを視覚的に表現。
若者が抱く「86世代」への敵愾心と背景
20代、30代の若年層は、86世代に対して強い敵愾心を抱いていることが指摘されています。彼らは、86世代が数十年にわたり社会の要職を占め、様々な恩恵を受けてきたことを「既得権益」と見なす傾向が強いのです。1980年代にはデモに参加しても卒業すれば企業に迎えられたという話は、今の若者たちにとってはまるで別世界の出来事のように聞こえ、当時の社会運動がもたらした恩恵が自分たちには及んでいないという不満につながっています。
1990年代までは、86世代が築いた市民運動文化が若者に一定の影響を及ぼしていました。しかし、2000年代以降、その文化は途絶えることになります。86世代の思想を伝播した大学の学生運動組織は瓦解し、または思弁的な論争に終始して学生たちの関心を失っていきました。かつて学生を「独裁打倒」「労働者団結」といった運動に誘い込もうとした勢力は、共感を得られないと「街に遊びに行こう」「食事をおごる」といった誘い文句を使うようになりました。しかし、実際にマスクや手袋を配り、デモへの参加を勧誘しても、大半の学生はそれを避けました。もはや大学街に残る運動勢力は、主体思想派系列の韓国大学生進歩連合(大進連)のような一部に限られています。
政治家たちの見解と世代間ギャップの普遍性
光復節の特赦で赦免された曺国(チョ・グク)元法務部長官は、「20代、30代の一部、特に男性の一部は極右化している」と主張しました。これは、若年層の政治意識の変容に対する旧世代からの懸念を示唆しています。過去には、今から20年前、40代だった柳時敏(ユ・シミン)氏が「60代以上は脳が腐る」と発言し、世代間の溝を浮き彫りにしました。しかし、今や60代となった柳氏は、20代、30代の男性を「ごみ」呼ばわりし、何も知らない青年層が「極右ユーチューブにはまって」保守化したと主張しています。
こうした政治家たちの言葉は、世代間の対立というテーマが、時代や特定の理念とは無関係に、常に繰り返される普遍的な人間の心理状態に根ざしていることを示しています。若い世代に対する旧世代の不満は、それぞれの時代背景や政治的イデオロギーを超えて、いつの時代にも存在し続ける感情のようです。
結論
韓国社会で顕著に見られる「世代間政治対立」は、旧世代が抱く若者への不満と、若者が旧世代を既得権益と見なす意識の衝突によって深まっています。この現象は、古代から現代に至るまで繰り返されてきた世代間の普遍的な意識ギャップの表れであり、政治や社会構造の変化と深く関連しています。若者層の政治的保守化や、かつての学生運動文化の衰退は、この対立をさらに複雑にしています。
このような世代間の意識ギャップは、韓国に限定されたものではなく、社会の成熟と共に世界各国で観察される普遍的な社会現象です。それぞれの世代が異なる社会経済的背景や価値観を持つ中で、相互理解を深め、対話を通じて共通の未来を築く努力が、健全な社会発展には不可欠となるでしょう。
参考文献
- 朝鮮日報日本語版, 「古今東西、旧世代は若い世代を見て情けないと考えてきた」, Yahoo!ニュース, 2025年8月30日.
https://news.yahoo.co.jp/articles/7754890cebe6c3ec04befe2382125987f759c76d - ソウル大学国家未来戦略院 調査報告書 (記事内言及の調査より)
- 『イーリアス』
- 『韓非子』「五蠹」