近年、漫画の映像化やドラマのコミカライズが盛んに行われる中、X(旧Twitter)で突如として大きな注目を集め、エンタメ業界に新たな風を吹き込んでいる作品があります。それが、漫画家・菊智祐麻氏による読み切り漫画『怪人は帰らない』です。本作は、読者投票で優勝作品が決まる「サンデールーキー・王者決定戦2025」で見事第1位に輝き、その独創的な戦隊ヒーローをテーマにしたラブコメディが多くの読者を魅了しています。今回は、作者である菊智祐麻氏のインタビューを通じて、その創作の背景と作品の魅力を深掘りします。
唯一のぼっちヒーロー、黒江墨崇の日常
物語の主人公は、17歳の戦隊ヒーロー「ブラック」こと黒江墨崇です。彼はヒーローとしての誇りを胸に、怪人討伐に日々奮闘しています。しかし、ある日、彼の戦隊ヒーローとしての日常に衝撃が走ります。共に戦う仲間であるレッドとピンク、そしてブルーとイエローが、なんと恋人関係であることが判明したのです。唯一の「ぼっち」ヒーローとして、羨望と孤独感に悶々とする日々を送るブラック。そんな彼の前に、戦いの最中、一人の弱小「怪人」が現れます。ブラックは他のヒーローたちに内緒で、この怪人との奇妙な同居生活を始めることになります。ヒーローと怪人という、前代未聞の組み合わせで織りなされるラブコメディは、「続きを頼む」「こういうのがいいんだよ」「天才」といった絶賛の声と共に、SNS上で瞬く間に大きな反響を呼びました。
人気沸騰中の漫画『怪人は帰らない』のキービジュアル。主人公ブラックとヒロインの怪人シルモが描かれ、独創的なラブコメの世界観を表現している。
菊智祐麻氏が明かす創作の裏側
衝撃設定「自分以外みんな付き合ってた」の誕生
本作の大きな魅力の一つである、戦隊ヒーロー5人中4人がカップルで、主人公だけがぼっちという斬新な設定はどのように生まれたのでしょうか。菊智氏は、「まず戦隊ヒーローと女怪人のラブコメを描くと決め、次にキャラクターについて具体的に考える段階でこの設定を思いついた」と語ります。特に、「陰キャ気味で恋愛に憧れがある主人公がどんな状況に置かれていたら面白いか、読者が興味を持ってくれるか」を深く考えた結果、「自分以外みんな付き合ってる戦隊ヒーロー」というユニークな着想に至ったそうです。このアイデアが、物語に深みと共感を加えています。
忘れられないキャラクターデザイン:キュートな怪人シルモ
主人公と共に物語を彩る怪人シルモは、そのキュートな魅力で読者の心をつかんでいます。菊智氏はシルモを描く上で、「作中では、自分なりに表情豊かに描くことを意識した」と述べます。特にこだわったのは、読んだ人に覚えてもらいやすいよう、モチーフを決めつつもシンプルなデザインを追求した点です。女性怪人としてのボディラインが際立つ衣装でありながら、どこか上品さや可愛らしさを感じさせるデザインに工夫されています。また、めちゃくちゃ弱い怪人であるにもかかわらず、一人称が「わらわ」であるというギャップも、キャラクターの魅力を一層引き立てています。
作者が語るお気に入りシーン:感情表現の妙
数あるシーンの中でも、菊智氏が特にお気に入りとして挙げたのは31ページ目です。このページの1コマ目と3コマ目では、「大袈裟じゃない表情でキャラの感情を表せた」と語り、細やかな心情描写への自信を覗かせます。さらに4コマ目では、「あえてヒロインの表情を隠して、より強く抱き着いている腕と高く上げた脚で喜びを表現できた」と、キャラクターの感情を視覚的に、かつ印象的に伝えるための演出にこだわりを見せています。
読者投票No.1の栄誉と今後の展望
「サンデールーキー・王者決定戦2025」で第1位という快挙を成し遂げたことに対し、菊智氏は「この結果に至るだけの応援を多くの方々にいただいたので、嬉しいと同時に、本当にありがたいと感じた」と、感謝の気持ちを述べました。SNS投稿時から投票終了時まで予想もしない反響があったため、しばらくは現実感がなかったそうです。しかし、週刊少年サンデーへの掲載準備を進める中で、「もっと多くの人に読んでもらえるんだ」という喜びを強く感じるようになったと言います。
作品を楽しみにしている読者へ向けて、菊智氏は「『怪人は帰らない』では、ラブコメかつ戦隊ヒーローを描きました。あまりジャンルに拘らず描いているので、発表を控えている作品は別ジャンルですし、今後も色々な作品を描くと思います」と今後の意欲を語ります。そして、「どの作品も一度会ったら忘れられないキャラを目指しています。女の子、男の子、おじさん、お姉さん…色んな人を描くのが好きなので、今後作品を発表した際は、キャラに会いに来てもらえたら嬉しいです」と、キャラクターへの深い愛情と、読者への期待を込めたメッセージを送りました。
『怪人は帰らない』は、その独創的な設定と魅力的なキャラクター、そして菊智祐麻氏の確かなストーリーテリングによって、日本の漫画界に新たな旋風を巻き起こしています。今後の展開、そして作者の多様なジャンルへの挑戦が、日本のエンターテインメント文化をさらに豊かにしてくれることでしょう。
参照元:
- Yahoo!ニュース
- ザテレビジョン マンガ部