金正恩氏の娘ジュエ氏、国際舞台デビューの深層:後継者問題と金委員長の意図

2024年某日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が中国を訪問した際、娘の金ジュエ氏が同行し、国際舞台に初めて姿を現したことは世界中の注目を集めました。2013年生まれとされるジュエ氏が、わずか12歳で外交活動を開始したことは、金氏一家の「白頭(ペクドゥ)血統」においては史上最年少のケースとなります。この異例のデビューは、単なる家族の同行以上の深い意味を持つと専門家は分析しており、北朝鮮の後継構図や金正恩氏自身の思惑が複雑に絡み合っている可能性が指摘されています。

異例の国際舞台デビュー、しかし本舞台には不参加

今回の中国訪問で、金ジュエ氏は父である金正恩委員長に同行しましたが、その活動は限定的でした。特に、3日午前に開催された「戦勝節(抗日戦争および反ファシスト戦争勝利80周年大会)」の行事参観では、天安門楼上にジュエ氏の姿はありませんでした。この重要な式典には、中国の習近平国家主席が米国の覇権に対抗し、新しい世界秩序を主導すると宣言する意図が込められており、26カ国の首脳が出席する多者外交の舞台でした。

北朝鮮の金ジュエ氏、父である金正恩氏と共に国際行事に姿を現す北朝鮮の金ジュエ氏、父である金正恩氏と共に国際行事に姿を現す

ジュエ氏をこの場に登場させなかった背景には、複数の分析が存在します。中国側が、まだ幼いジュエ氏の存在を不快に感じた可能性や、金正恩委員長自身が国際的な注目を浴びる多者外交の場でジュエ氏を同行させることに負担を感じた可能性が指摘されています。また、12歳という年齢では、世界各国の首脳が集う外交舞台に対応するには経験が不足しているという現実的な判断が作用したとも考えられます。

「白頭血統」の慣例と新たな後継構図への憶測

ジュエ氏が主要行事に参加しなかったにもかかわらず、今回の訪中で彼女が北朝鮮の4代世襲後継者にほぼ決まったと見る見方も少なくありません。これまでの北朝鮮では、金日成(キム・イルソン)主席や金正日(キム・ジョンイル)総書記も、後継者を中国訪問に同行させることで後継構図を具体化する機会としてきた経緯があります。この慣例に倣うとすれば、ジュエ氏の中国同行は後継者としての地位を強化する動きと解釈できます。

しかし、まだ41歳と若い金正恩委員長が、娘をこれほど早期に前面に出したことは、北朝鮮体制の特殊性を考慮しても異例の事態です。北朝鮮メディアがジュエ氏を「愛するお子様」と表現している点を考慮すると、対外的な公式化が先行している可能性も示唆されます。これは、金委員長が自身の子どもを後継者として国民に印象づけるための、時間をかけた戦略の一環かもしれません。

金正恩委員長の個人的背景が影響か

金正恩委員長がジュエ氏を早期に表舞台に出した背景には、彼自身の個人的な成長背景が深く影響しているという分析もあります。金委員長の生母は、北朝鮮に送られた在日同胞の舞踊家、高容姫(コ・ヨンヒ)氏であり、金正日総書記の正室ではありませんでした。母親が在日同胞で、金総書記の3番目の夫人であったという理由から、金正恩委員長は父と離れて「隠遁の幼年期」を過ごしたとされています。

統一研究院のオ・ギョンソプ研究委員は、「金正恩委員長は『白頭血統』ではあるものの、正統性に絶えず疑いを受けてきた自身の幼年時代に対する『補償心理』が作用したとみられる」と分析しています。このような個人的な経験が、自身の娘には異なる道を歩ませたいという願望につながった可能性も考えられます。

外交的孤立経験と独裁者イメージ払拭の戦略

さらに、金正恩委員長が経験してきた外交的孤立も、ジュエ氏の同行決定に影響を与えたと分析されています。金委員長は、執権から7年後の2018年にようやく習近平主席と初めて会談することができました。この間、朝中関係で核心的な役割を担っていた叔母の夫・張成沢(チャン・ソンテク)氏の粛清、そして度重なる核実験を含む高強度の挑発行為により、中国からの「祝福」を得られず、相当な期間にわたって外交的孤立を経験してきました。

このような経験から、金委員長は対外的なイメージ戦略の重要性を認識している可能性が高いです。一部からは、幼いジュエ氏をケアする姿を通して、自身の「残酷な独裁者」というイメージを希釈し、国際社会からの注目を劇的に集めるための「道具」として活用したに過ぎないという指摘も出ています。

結論

金ジュエ氏の国際舞台デビューは、北朝鮮の次期後継者問題に新たな憶測を呼ぶとともに、金正恩委員長自身の複雑な内面と戦略が反映された出来事と言えるでしょう。伝統的な「白頭血統」の慣例、金委員長の個人的な背景、そして長年の外交的孤立経験が交錯し、ジュエ氏の登場は単なる一過性のニュースに留まらない、多層的な意味合いを帯びています。今後、ジュエ氏がどのような役割を担っていくのか、その動向は引き続き国際社会の重要な関心事となるでしょう。


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