ウクライナのセルギー・コルスンスキー前駐日大使は、ロシアが和平交渉の条件として要求する東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の割譲について、領土面での譲歩は西側諸国による「実効的な安全の保証が前提となる」と強く訴えた。これは、ウクライナの主権と将来の安全保障に対する揺るぎない姿勢を示すものだ。大使は8月27日に東京都内で時事通信の取材に応じ、ウクライナが直面する困難な状況と、国際社会、特に日本に期待する役割について詳細に語った。
ロシアの領土要求:主権を巡る戦い
コルスンスキー前大使は、ロシアによるウクライナ侵攻が単なる領土を巡る戦争ではないと断言する。彼は、「ロシアがウクライナの主権を奪うための戦争だ」と指摘し、プーチン露大統領が提示した和平条件に、ウクライナでのロシア語公用語化やロシア正教会の保護が含まれることをその証拠として挙げた。
セルギー・コルスンスキー前駐日ウクライナ大使が時事通信の取材に応じる
さらに、大使は歴史的背景にも言及し、ウクライナとロシア、ベラルーシが9世紀末からキーウを中心に栄えたキエフ公国を源流とすることを説明した。そして、「21世紀において信じ難いことだが、プーチンはロシアのルーツであるキーウを支配下に置く目的で戦争を始めた」と述べ、領土を割譲して和平を結んでも、ロシアがいずれ必ず侵攻を再開する危険性を強調した。この繰り返される侵攻を防ぐには、西側諸国による「安全の保証」が不可欠であるとの見解を示した。
「実効性のある安全の保証」の重要性
安全の保証という言葉が持つ良い響きとは裏腹に、その「中身」が極めて重要だと前大使は語る。彼は、中国やロシアが主張する安全の保証は信用できないと断じ、具体的な例として1994年のブダペスト覚書を挙げた。この覚書では、ウクライナが核兵器を放棄する代わりに、米英ロ3カ国がウクライナの安全を守ると約束し、中国とフランスも個別に安全の保証を表明した。しかし、ロシアはこの約束を破り、中国は侵攻を支援している現状を指摘し、「同じ過ちを繰り返してはならない」と強く訴えた。ウクライナが求めるのは、言葉だけでなく「実効性のある強固な」安全の保証なのだ。
領土割譲の可能性と日本の役割
ウクライナが領土割譲を認める可能性について、コルスンスキー前大使は「実効性のある安全の保証が大前提となる」と述べた。具体的には、(日米安全保障条約に基づき)米国が日本に対して提供するような強固な保証を受けられれば、ゼレンスキー大統領もドンバス地方におけるロシアの実効支配を黙認するかもしれないとの考えを示した。しかし、そのためには政権が国民と徹底的に対話を尽くす必要があると付け加えた。
長期的な展望として、東西ドイツの統一やバルト諸国のソ連からの独立を例に挙げ、「プーチン政権が倒れ、ロシアが民主化すれば、いずれはウクライナも実効支配された領土を回復できるかもしれない」と語った。ただし、これは極めて長期的な話であると認識を示した。
日本の安全の保証への参加意向については、「和平プロセスへの日本の参加は重要だ」と高く評価した。日本が軍事支援を提供できない状況を理解しつつも、「政治・財政面で支援を続けてくれたら非常にありがたい」と述べ、ドローンの共同生産やサイバー防衛など、非軍事分野での協力の可能性にも期待を寄せた。
ウクライナが求めているのは、一時的な停戦ではなく、将来にわたる持続的な平和と安全である。そのためには、国際社会、特に信頼できるパートナーからの具体的な安全保障措置が不可欠であり、日本がその中で重要な役割を果たすことへの期待が大きいことが今回の発言から読み取れる。
参考文献
- 時事通信社 (2023年8月27日). ウクライナ、領土割譲は「実効的保証が前提」=前駐日大使. Yahoo!ニュース.
https://news.yahoo.co.jp/articles/3c94748ad86b282dad74fd4647564228eaba7b99