欧州主要国の中で地盤沈下が指摘される「斜陽の大国」イタリアだが、その国民は自国の食文化に対して絶対的な自信と揺るぎない誇りを抱いている。それゆえ、他国の料理サイトなどが伝統的なイタリア料理のレシピを誤って紹介すると、「まがいものだ」と激しく反発し、ときに国際的な論争に発展することもある。この強烈な食への愛国心は、彼らにとってアイデンティティの根幹をなすものと言えるだろう。
イタリア国旗が象徴する食文化への誇り
カチョエペペ論争:英国サイトとイタリアの衝突
最近も、ローマの伝統的なパスタ料理「カチョエペペ」のレシピを巡り、英国の料理サイトがイタリアの料飲業団体と衝突する出来事があった。カチョエペペは、パスタ、コショウ、そして羊乳から作られるペコリーノチーズのみで構成される極めてシンプルな一皿だ。しかし、問題の英国サイトがレシピにバターを加えるよう指示したことが、イタリア人にとっては「許し難い暴挙」と映ったようだ。イタリアの料飲業団体は即座にサイト運営会社と在イタリア英国大使に対し、強い抗議文を送付し、伝統レシピの厳守を訴えた。この一件は、イタリアの食文化における細部へのこだわりを如実に示している。
カルボナーラとナポリピザ:揺るぎない伝統主義の象徴
こうしたレシピ論争は、過去にも繰り返されてきた。数年前には、米国の新聞がパスタ料理のカルボナーラにトマトを加えるレシピを紹介したことで、イタリアの農業団体から公式な抗議を受けた事例もある。本場のカルボナーラは卵、豚肉(グアンチャーレ)、ペコリーノチーズ、黒コショウで構成され、トマトは一切使用しないため、これは伝統に対する冒涜と見なされたのだ。
さらに、ナポリピザに至っては、業界団体が「真のナポリピザ」と認定されるための非常に厳しい基準を設けている。使用する小麦粉の種類、酵母、水、塩はもちろん、地元産の材料を使うこと、そして石窯での焼き方まで、厳格な規定が設けられており、これらを満たさなければナポリピザとは認められない。この徹底した伝統主義は、まさにイタリアの食文化が持つ揺るぎないアイデンティティの証拠である。
食文化における愛国心と柔軟性の問い
料理を巡るイタリアのこうした強い愛国心と、伝統への徹底したこだわりには敬意を表さずにはいられない。彼らは自国の食文化を世界に誇り、その純粋さを守り抜こうとする情熱を持っている。しかしながら、その厳格な伝統主義は、ときに少々堅苦しく、排他的な印象を与えることもあるかもしれない。食文化の発展には、伝統の継承と同時に、新しい解釈や異文化との融合が不可欠な側面もあるからだ。
このような話を聞くたびに、私自身の記憶の中にある、昔通いつめた日本の神保町の喫茶店で食べた大盛りスパゲティ・ナポリタンが無性に恋しくなる。イタリアの伝統からは遠く離れた、日本独自の進化を遂げた「ナポリタン」は、柔軟な食文化の一つの形を示していると言えるだろう。
参考資料
- Yahoo!ニュース: 「イタリアは『斜陽の大国』だが…食文化へのこだわりは絶対の自信」 (https://news.yahoo.co.jp/articles/434016e9055a00e6a335baf21417d57a15433287)