米雇用統計低迷でFRB利下げ観測強まる:トランプ大統領が金利政策に圧力

【ワシントン時事】8月に発表された米雇用統計は、非農業部門の就業者数が前月比2万2000人増と、市場の事前予想を大きく下回る低調な結果となりました。この雇用の伸びの急速な失速を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)が次回金融政策会合で利下げに踏み切り、金融緩和局面へと移行するとの観測が市場で強まっています。米国経済の減速が鮮明になる中、FRBの判断は世界経済、ひいては日本経済にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

期待外れの雇用統計と高まる利下げ圧力

5月以降の非農業部門就業者数の月平均増加幅は2万人台半ばに留まり、春先の10万人超という堅調な伸びから明確に勢いを失っています。この8月の雇用統計の結果を受け、ホワイトハウスのハセット国家経済会議(NEC)委員長は記者団に対し「期待外れだ」と述べ、市場の失望感を代弁しました。

失業率も前月から0.1ポイント悪化し4.3%に上昇。労働市場の想定以上の弱さから、金融市場ではFRBが年内の残り3回の会合全てで0.25%の利下げを実施するとの見方が浮上しています。ハセット氏はさらに、FRBが次回会合で0.25%よりも「大幅な引き下げを検討する」可能性まで示唆しました。このような状況は、米国経済が直面する課題の深刻さを浮き彫りにしています。

製造業の苦境と「トランプ関税」の影響

特に懸念されるのは、トランプ大統領が振興に注力する製造業の不振です。相互関税導入など、いわゆる「トランプ関税」が本格化した4月以降、製造業の就業者数は合計で4万2000人もの減少を記録しています。米金融大手からは、「関税を巡る不透明感が企業投資の弱まりにつながった可能性がある」との指摘も上がっており、保護主義的政策が国内産業に逆効果をもたらしている可能性が示唆されています。製造業の雇用減少は、広範な経済活動への波及効果も懸念されます。

トランプ大統領、FRBの金利政策を改めて批判

こうした製造業の雇用減少に対し、トランプ大統領は5日、記者団に対して「金利が高過ぎる。FRBの問題だ」と語り、その責任を連邦準備制度に転嫁しました。さらに、自身のSNSへの投稿でも「『遅過ぎ』パウエル(FRB議長)はかなり前に利下げすべきだった」と述べ、パウエル議長とFRBの金融政策決定を改めて強く批判しました。大統領によるFRBへの異例な介入は、中央銀行の独立性を巡る議論を再燃させています。

インフレ懸念と今後のFRBの課題

一方で、関税引き上げは米国における物価上昇傾向を招いています。変動の激しいエネルギーや食品を除いたコア項目のインフレ率は、「目標の2%よりも3%に近い」(FRB高官)とされ、根強い懸念材料となっています。FRBは利下げによって経済を刺激したい一方で、インフレ再燃のリスクも考慮する必要があり、その舵取りは極めて困難です。11日に公表される8月の消費者物価指数(CPI)は、今後の利下げペースを占う重要な手掛かりとなるでしょう。FRBは雇用と物価の安定という二つの目標の間で、難しい判断を迫られることになります。

今回の米雇用統計の結果は、米国経済の減速が予想以上に進んでいる可能性を示唆し、FRBによる金融緩和への期待を一層高めました。しかし、トランプ大統領からの政治的圧力や、関税政策による物価上昇という複雑な要因が絡み合う中、FRBがどのような金融政策を選択するのか、その決定プロセスと今後の展開が注目されます。世界経済の先行きの不透明感が増す中で、FRBの動きは国際金融市場全体に大きな影響を与えることでしょう。

参考文献

  • 時事通信 (Jiji Press)