塩入清香議員のX投稿が波紋:技能実習生「失踪数3倍」発言の真相とデータ誤認の経緯

先の参院選で初当選を果たした参政党の塩入清香議員(43)が、国会議員として活動を始めて約2カ月が経とうとする中、彼女のX(旧Twitter)への投稿が大きな波紋を呼んでいます。この投稿では、外国人技能実習生の失踪者数に関するデータが引用され、日本の労働力不足解消に向けた政策提言がなされましたが、その内容の正確性と論理展開について多くの指摘が寄せられています。

参政党・塩入議員のX投稿、技能実習生失踪に関する「3倍」発言の波紋

塩入議員は9月2日、Xに「年間の行方不明となった技能実習生数」と題し、以下の内容を投稿しました。

《2023年(令和5年)に日本で行方不明(失踪)となった技能実習生数は過去最多の 9,753人。これは前年の約3倍に増加した数字です 。技能実習生全体に対する失踪率は、約1.9%とされ、近年では年間おおよそ1.7〜1.9%の範囲で推移しています 。 どのような形であれ海外から労働力を入れ、日本の労働力不足を解決しようとするのではなく、「積極財政」によって日本人の賃金が上げられる環境づくり、徹底的な設備投資、機械化を促す政策的サポートが急務です。取り組んでまいります。》(原文ママ)

この投稿は、前半で技能実習生の失踪者数に関する客観的データを示し、後半で日本の労働力不足解消のための政策提言を行うという構成でした。しかし、X上では「前後の話が噛み合っていない」「何が言いたいのかよくわからない」といった疑問の声が多数寄せられる事態となりました。

全国紙の政治部記者は、この投稿について「前半の技能実習生の失踪率のデータが、なぜいきなり『海外からの労働力導入』そのものの否定になるのかの論理的な説明がありません。なにより、労働力不足の解決策が、なぜ『積極財政』という全く異なる財政政策に結びつくのか、こちらも論理的な説明が抜け落ちているため、論理の飛躍を感じる人が多いのでしょう」と指摘しています。

参政党の塩入清香議員、Xでの技能実習生失踪に関する投稿で物議を醸す参政党の塩入清香議員、Xでの技能実習生失踪に関する投稿で物議を醸す

法務省データとの乖離:明らかになる「3倍」の誤り

さらに深刻な問題として、塩入議員が示した「令和5年に失踪した技能実習生数は過去最多の9,753人。これは前年の約3倍に増加した数字です」というデータが、実際の公表データと大きく異なっていることが判明しました。

法務省の出入国在留管理庁が公開している「技能実習生の失踪者数の推移」によると、令和4年の失踪者数は「9,006人」、令和5年は「9,753人」となっています。この数字を比較すれば、「約3倍」にはなっていないことは一目瞭然であり、この点についても「デマではないか」といった指摘が相次ぎました。

実際に最新の令和6年のデータを確認すると、失踪者数は「6,510人」と発表されており、これは「前年比3倍」どころか「前年比3割減」という状況です。

誤認の背景:ミャンマー出身者に関するデータ解釈の可能性

なぜこのような「約3倍」という誤った情報が引用されたのでしょうか。一部では、出入国在留管理庁の資料2ページ目にある「国籍別の失踪者の発生状況と取組」において、ミャンマー人の失踪者数が令和4年の「607人」から令和5年の「1,765人」へと「ほぼ3倍」に増加している点に注目し、塩入議員がこの部分を読み違えたのではないかと推測する声もありました。しかし、塩入議員の投稿の文脈から、特定の国籍の失踪者数の増加のみを指しているとは読み解けず、ミャンマー人に限定する理由も不明瞭でした。

議員側からの訂正と出典明記:朝日新聞記事が情報源

この問題を受け、9月3日午前、参政党を通じて塩入議員に対し、「前年の約3倍」の意味と出典、投稿内容の説明、そして令和6年の最新データを用いなかった意図について質問が行われました。その結果、9月5日に以下の回答が寄せられました。

《この度のご質問につき、塩入議員から回答を以下にお伝え致します。「前年の約3倍」との表記に関して、「ミャンマー出身者が」との記載が欠けていた旨を訂正しお詫びしております。》

これに合わせ、塩入議員は9月3日13時16分にXで以下の補足説明を投稿しました。

《出入国在留管理庁によると、昨年、日本で9,753人の外国人技能実習生が行方不明となり、過去最多を記録しました。そのうち1,765人は紛争の続くミャンマー出身で、前年のほぼ3倍に増加したと同庁は9月27日に発表しました。(2024/9/28朝日新聞)ミャンマー出身者が前年の3倍に増加、の一文を抜かしておりました。申し訳ございません。》

さらに、参政党からの回答には《本件投稿の原典は、次の記事です。》として、2024年9月28日配信の『朝日新聞』の記事「2023年に日本で技能実習生の行方不明者、過去最多の9,753人」のURLも添付されました。塩入議員がこの朝日新聞の記事から根拠とした箇所は、以下だと考えられます。

《出入国在留管理庁は、昨年日本で行方不明になった外国人技能実習生の数が9,753人に達し、過去最多を記録したと発表した。 そのうち1,765人が紛争は紛争下のミャンマー出身者だった。同庁は9月27日、この数字は前年の約3倍に達したと発表した》

結論

今回の塩入清香議員のX投稿を巡る一連の経緯は、国会議員という公的な立場にある人物の発言の重みと、情報発信における正確性の重要性を改めて浮き彫りにしました。特に、政策提言の根拠となるデータについては、出典を明確にし、その解釈に細心の注意を払う必要があります。情報の誤認や論理の飛躍は、国民の誤解を招くだけでなく、政治家自身の信頼性を損なうことにも繋がりかねません。今後、公の場で発言する際には、より一層の事実確認と慎重な表現が求められるでしょう。

参考文献