漫画原稿の「文化財」としての価値:放置される現状と保存への課題

近年、漫画家の原稿やアニメのセル画が貴重な文化財や美術品として評価されるようになりました。しかし、その実態は、これらの大切な品々の保存体制が十分に整っておらず、関係者自身が無頓着なケースも少なくありません。ある古紙回収業者が筆者に語った言葉は、この現状を象徴する衝撃的なものでした。

古紙の中から発見される「文化財」としての原稿

「回収した古紙を仕分けしていたら、明らかに漫画家が出したと見られる“原稿”が大量に紛れ込んでいたのです。しかも、私でも知っているような有名な漫画家のもの。これは美術館が保存すべきではないか、古紙として扱っていいのかと非常に悩みましたが、通常の段ボールや新聞紙と同じ扱いにしてしまいました」

プライバシーに関わるため、その古紙回収業者が明かした漫画家の名前は伏せますが、この漫画家は60歳を超える高齢で、終活を見据えて長年ため込んでいた原稿を処分したのかもしれません。このような事例は今後も起こり得るでしょう。なぜなら、連載で描いた数千枚にも及ぶ漫画原稿を持て余し、その扱いに途方に暮れているアナログ漫画家は少なくないからです。

価値ある漫画原稿が古紙として扱われる現状を示す写真価値ある漫画原稿が古紙として扱われる現状を示す写真

デジタル化の波とアナログ漫画家の原稿管理の苦悩

現在の漫画界では、デジタル作画が主流となっており、紙とペンを使ってアナログで描いている漫画家は全体の数パーセントほどと考えられています。そんなアナログ派の漫画家を悩ませているのが、大量に生み出される漫画原稿の管理です。週刊連載を続けてきた漫画家は、わずか1年で数百枚もの原稿が手元に残ります。その扱い方は、漫画家によって実に様々です。

原稿を生涯大切に保管する漫画家もいる一方で、まったく無頓着で、押し入れに突っ込んでおいたり、ファンにあっさり譲ってしまう漫画家も存在します。さらに深刻なのは、漫画家本人がどんなに大切にしていても、死後、遺族がその価値を理解せず処分してしまったという悲しい実例も実際に報告されています。これらの貴重な漫画資料が失われる危機に直面しているのです。

貴重な原稿の「横流し」は是か非か?そして複雑な著作権問題

一部の古紙回収業者の間では、こうした価値ある漫画原稿を発見した際に「これを再生紙にしてしまっていいのか」と惜しみ、古書店などに流す例もあるといいます。実際、少し前にとある漫画家の原稿がインターネット上で販売されていた例がありましたが、どうやら古紙回収の現場から流出したものだったようです。

古紙回収業者のそういった行為が良いのか悪いのかは、倫理的な議論を呼ぶところです。廃品回収業者が芸能人から処分を依頼されたグッズを横流しして騒動になったことは過去にも度々ありました。前出の古紙回収業者が扱った漫画家の名前が明かされれば、ファンの間から「処分反対」「もったいない」という声が上がってもおかしくないでしょう。

ある漫画家のもとには、「原稿を捨ててしまうならファンに分けてほしい」という声が寄せられているようですが、そう簡単ではないのが現実です。自分の漫画のオリジナル原稿であれば販売することも可能でしょう。しかし、原作がついていたり、ゲームやアニメを漫画化した作品の場合は、著作権の扱いが非常に複雑になります。

ゲームが原作の漫画などは、関係者に連絡が取れなかったり、出版社の中にも当時を知る担当者が既にいなかったりすることが多々あります。原稿を売却するというパターンを出版社側も想定していないため、編集者も適切なアドバイスが困難です。結果として、どうすればいいのかと漫画家は悩んでしまい、売るにも売れずに処分してしまうケースが後を絶たないのが現状です。漫画原稿の適切な保存と活用に向けた、より明確なガイドラインと支援体制の構築が喫緊の課題となっています。


参考文献: