石破茂元首相の辞任が日本の農業改革にもたらす影響:山下一仁氏が語る「稀有な政治家」の功績と挑戦

石破茂元首相が辞任を表明した。この突然の発表に対し、キヤノングローバル戦略研究所の研究主幹である山下一仁氏は、「石破首相は地方出身の議員でありながら、農政改革に前向きだった稀有な政治家であり、日本の農業を立て直すことができたはずだ」と深い遺憾の意を示している。長年にわたり日本の農政に深く関わってきた山下氏が、石破氏の辞任が日本の農業改革にとって何を意味するのか、その影響を詳細に分析する。

稀有な政治家・石破茂氏と農政改革への情熱

山下一仁氏と石破茂氏の関係は、石破氏が1992年に農水省の政務次官に就任した際に遡る。30年以上にわたる交流の中で、山下氏は、自民党農林族議員による「バラマキ政策」化を避けるため、2000年度に導入した“中山間地域等直接支払制度”において石破氏の協力を何度も求めてきた。石破氏は、JA農協の組織票に左右されがちな他の地方出身議員とは一線を画し、常に日本の農業が抱える本質的な構造改革に強い関心と深い理解を示してきた、極めて稀有な政治家であった。

石破茂首相が首相官邸で「米の安定供給等実現関係閣僚会議」にて発言する様子。農政改革への取り組みが注目される。石破茂首相が首相官邸で「米の安定供給等実現関係閣僚会議」にて発言する様子。農政改革への取り組みが注目される。

日本農業の構造改革案:減反廃止と主業農家支援の提言

山下氏は2000年に『WTOと農政改革』を出版し、コメの減反廃止による米価引き下げと主業農家への直接支払いを通じて、農地を主業農家へ集積することで農業の構造改革を進める提案をした。さらに経済産業研究所(RIETI)在籍時には、農地や農協改革にも及ぶ理論的な提言を数多く発表。石破氏は、山下氏が出版した農政関連の約20冊の著書をほとんど読破し、その内容を深く理解していたという。山下氏は頻繁に石破氏の事務所を訪れ、農政だけでなくTPPなどの通商政策についても活発な議論を交わし、石破氏が日本の農政改革の重要性を深く認識していたことが伺える。

農業票と改革の壁:地元からの反発と石破氏の挑戦

山下氏が農水省を退官する際、防衛大臣だった石破氏に「あなたが農水大臣になってくれないから辞めることとなった」と伝えたところ、石破氏は「山下さんの書いているものはほとんど読んでいるが、地元で話すと某農業団体から『ここから出て行け』と言われてしまう。大臣になって実行するのは難しい」と本音を吐露した。この言葉は、JA農協の強力な組織票が日本の農業改革にとって大きな障壁となっている現実を浮き彫りにする。山下氏はこの時、「農水大臣という小さなポストではなく、総理・総裁を目指し、あなたの指示のもとでしかるべき人物に改革を任せたらどうか」と進言。その半年後、石破氏は初めて自民党総裁選挙に立候補した。多くの政治家が次の選挙での農業票獲得しか考えない中、石破氏の農業改革への理解と挑戦は、日本の政治状況において極めて異例であったと言える。

結論:石破氏の辞任が日本の農業改革にもたらす機会喪失への憂慮

石破茂元首相の辞任は、日本の農業改革にとって大きな機会の喪失であると、山下一仁氏は強く懸念している。農業の未来を見据え、構造的な問題に果敢に挑もうとした稀有な政治家が表舞台を去ることで、減反政策の見直し、コメ政策の抜本的転換、主業農家の育成、そして農協改革といった喫緊の課題への取り組みが停滞する可能性は否めない。日本の食料安全保障と持続可能な農業の確立には、石破氏のような長期的な視点と実行力を持つリーダーの存在が不可欠であり、今回の辞任が今後の農政に与える影響は計り知れない。

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