日本映画放送の「時代劇専門チャンネル」が制作した時代劇「帰郷」は、超高精細映像の8Kで撮影された。壮大かつ緻密な風景や、揺らぐろうそくの明かりの“質感”など、2K映像では難しかったさまざまな表現が可能となり、時代劇の新たな可能性を提示する作品となっている。(兼松康)
「これまでは、ろうそくの光を表現するのがとても難しかったので、それに(8Kで)挑戦してみたかった」
「帰郷」の杉田成道(しげみち)監督は、仏カンヌで開かれたテレビ番組などの国際見本市「MIPCOM」で、8K撮影をした理由を問われ、こう答えた。
「ろうそくの光はとても柔らかく、当時の人はその光に集まった。人間の揺れる気持ちを表現できた気がする」
実際のところ、役者陣にとっては、8K撮影で大きな影響があったわけではない。主演の仲代達矢は「機材は変わっても役者のやることは変わらない」。また、「8Kだからこういう芝居、とは一切考えなかった」(佐藤二朗)、「表情を変えるとかはできないし。どうにもできないですね」(常盤貴子)と、他の出演者も異口同音だ。
杉田監督も当初は「芝生(を映した8K映像)は緑過ぎて、自然な色じゃないと思った」と明かす。「きれいすぎて、リアル感や遠近感がなくなる」と危惧した。そこで、8K映像では通常、1秒間に60コマで撮るところを、「帰郷」では同24コマでの撮影にすることで、色みなどを落ち着かせる効果を得た。
こうした工夫を加え、8Kによって、ろうそくの光の柔らかさ、暖かさを「初めて撮影できた」と杉田監督は振り返る。台本も読めないくらいの暗いシーンで、揺らめくろうそくの光が美しく表現された。
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映像作品のポストプロダクション(撮影後の作業)を手掛ける「IMAGICA Lab.」のテクニカルディレクター、保木明元さんは、「『帰郷』は木曽の山の情景など、“8K映え”するシーンも多く、8Kで撮影することに意味があった」と解説する。